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「ようやく裁定の始まりですか」

「ブロワ家側も、もう限界なのでしょうね。向こうから裁定を言い出した以上は、手加減はしませんけど」

 俺が参加していない期間も含めて、約二ヶ月近くも行われているブライヒレーダー辺境伯とブロワ辺境伯による紛争は、次の段階に移行していた。

 全ての紛争案件で以前から持っていた利権や領地を全て失い、多くの貴族や家臣や兵士達も捕らえられ、本軍同士の戦闘でもお抱え魔法使いが捕らえられるなど誰が見てもブロワ辺境伯家側の不利は明らかだ。

 このまま対峙だけ続けても、それでブロワ家側が有利になるわけでもない。
 費用面などを考えると余計に不利になるだけだ。
 どうせ負けなら早めに決着をつけてかかる費用を抑えたい。
 そういう腹積もりなのかもしれない。
 だが、まだ何か隠し玉を持っている可能性もあり、裁定には俺とヴェルも参加する事になっていた。
 さすがにブライヒレーダー辺境伯の暗殺を目論むとかは勘弁して欲しいところだ。

「そうですね。ヴィルマさんとセイさんとエリーゼさんもお願いします」

 裁定の会場は、双方の軍勢が睨み合う草原の中心地点。
 そこに臨時で大型テントを張り、どちらも二十名までの随員が認められるそうだ。

 ブライヒレーダー辺境伯は、数名の家臣にブランタークさん、諸侯軍に参加している貴族数名とその付き人に俺はヴィルマとセイを伴い、ヴェルはエリーゼを伴って参加する事になっていた。

 正直なところ、ヴィルマがこの手の交渉で役に立つはずもない。
 だが彼女は、護衛には最適なので選ばれていた。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。今日は顔合わせくらいでしょうし」

 貴族として交渉に臨むという初めての経験に、俺たちは柄にもなく顔を真面目にさせていたようだ。
 それを見て、ブライヒレーダー辺境伯が話しかけてくる。
 裁定は、何日間かをかけて行われるようだ。
 まずは双方が独自の裁定案を主張し、当然そう簡単に合意には至らないので条件のすり合わせを行う。
 夕方になれば今日はこれで終わりとお互いに引き上げ、また明日の朝から交渉を行う。
 大筋で合意したら、今度は担当の家臣達が実務者協議を行って細かい細則のすり合わせや条件履行の確認などを行うそうだ。

「とはいえ、向こうは圧倒的に不利ですしね。支払う金額をいかに減らすかですか」

 例えば河の中州の取り合いなど、無理矢理こちら側の物だと認めさせても、また時間が経つと元も木阿弥になる事が多いそうだ。
 ただ、双方ともそれは十分に理解している。
 それに片方が独占をすると、もう片方にいらぬ禍根を残して争いが広がる可能性もあるそうだ。
 世代が変わると『昔に取られた利権を取り戻す!』と宣言して家中の支持を集めるような新当主が出て、また兵を出したりする。
 結局キリがないので、所有権が曖昧で半分ずつくらいの方が良かったりする事も多いのだ。

「前の条件にして欲しければ、多額の和解金に捕まった人達への身代金もありますね。アレ、捕虜の期間が長いと増額になりますし」

 捕虜には、それぞれの身分に応じた待遇が必要となる。
 貴族本人などは金がかかるので、当然その費用は身代金に上乗せされるわけだ。

「それに紛争の原因は向こうにありますしね」

 ルールを破って、事前告知無しの奇襲まで仕掛けたのだ。
 和解金の額はかなり高騰するはずだとブライヒレーダー辺境伯は説明していた。

「とにかく、まずは顔合わせです」

 両軍が睨み合う草原の真ん中に先に裁定を言い出したブロワ家側の兵士達が急ぎ野営用の大型テントを設営する。
 それが終わると、ブロワ家側の兵士の一人が甲高い笛のような物を吹き、暫くするとブライヒレーダー家側からも同じ笛の音が響いていた。

「準備完了というわけです。では、参りましょうか?」

 ブライヒレーダー辺境伯に促されて、合計二十名の交渉団がテントの前まで歩いて行く。
 到着するとテントの入り口が開かれ、中に入って来いという事らしい。
 ブライヒレーダー辺境伯を先頭に中に入ると二十名が向かい合って座れるように長いテーブルと椅子がセットされていた。

「貴殿が、ブライヒレーダー辺境伯であるか?」

「いかにも。そちらは、ブロワ辺境伯とは違うようですが」

「総大将代理のカルラ・フォン・ブロワ様である」

 手紙の通りに現在のブロワ軍の総大将はカルラという娘が務めているようだ。
 彼女は、俺達と大して年齢が違わないように見える。
 オーダーメイドだと思われる高価そうなミスリル製のチェインメイルを着ていて、腰くらいまである黒い髪を後ろで束ね、少し大和撫子風に見える美少女である。

 身長は百六十五センチほどで、スタイルも良かった。
 胸の大きさは、ヴィルマ以上であろうか?

 事前にエリーゼから聞いた情報によると彼女はつい一年ほど前までは王都で生活をしていたらしい。
 母親が貧乏法衣騎士の娘であったせいで他の姉妹達に嫌われ、東部には一度も入った事がなかったそうだ。

『俺。全然面識がないな』

『王都でブロワ辺境伯様から仕送りを受けて生活をしていたそうで、ヴェンデリン様と接触するのを避けたようです』

 エリーゼ自体は、かなり長い期間面識があったそうだ。
 ただ、親友同士というわけでもない。
 カルラが教会に嫁入り修行も兼ねて勉学や家事などを習いに来ていて、たまに教会主宰のチャリティー活動などの手伝いを一緒にした。
 お互いに自己紹介をして、何度かお茶を飲んだ事がある。
 そのくらいの仲だそうだ。

『教会で勉強ね』

 ブロワ辺境伯から仕送りがあるが、そう大金でもない。
 母娘で実家に居候しているので、それなりの金額は入れないといけない。

『カルラさんのお爺様や伯父様などは、あまり優秀な方とは……』

 爵位に差はあっても同じ王国から任じられた貴族同士なのに金欲しさに娘を差し出しているのだ。
 当然、他の法衣貴族達からもあまり良い目では見られていなかった。
 更に、その仕送りを利用して役職を得ようと付け届けなどをしているらしいが、周囲からの悪判に能力不足もあってただ金を無駄にしているらしい。

 カルラが無料で学べる教会に来ていたのには、そういう理由があったそうだ。

『そのカルラさんも残念な家族に振り回されていると』

『はい。そういう事になります』

 そのせいなのかは知らないが、実は彼女武芸はかなり嗜んでいるそうだ。
 特に弓とナイフの投擲術には優れているらしい。

『俺と被るなぁ……』

『前回の武芸大会で、弓の部で準優勝だそうです』

『レベルが違うぜ……』



「総大将代理のカルラ・フォン・ブロワです。裁定交渉に参加いただき感謝しております」

 結局、彼女が発した発言はそれだけだった。
 主な交渉は彼女に随伴している家臣達が行い、彼女はお飾りでしかない。
 相続を争っている二人の息子の内のどちらかでもいれば主役になるであろうが、カルラは女性なので実務などしないからだ。
 隠してはいるがブロワ辺境伯は病欠で、というかこの場にいない時点で彼に何らかの不都合があるのは明らかであった。

「(ふう……)」

「(どうかしましたか?)」

「(長くなりそうですね)」

 ブライヒレーダー辺境伯は家臣の一人から何かを耳打ちされると溜息をつきながら俺に小声で話しかけていた。
 交渉の席にいる家臣達が、全て武官なのが気に入らないらしい。
 そういえば、前に長男の支持母体が諸侯幹部に多いと聞いたような気がした。

「(多分、今回の出兵は長男のフィリップ殿が大きく関与しているようです)」

 相続を争っている二人であったが、今はいつ死ぬかわからないブロワ辺境伯から離れられないはず。
 なぜなら、ここで総大将などをしている内にブロワ辺境伯が死ぬと残っている方が遺言を偽造し、勝手に王都に襲爵の許可を取ってしまう可能性があったからだ。

 そこで、諸侯軍に支持者が多いフィリップが、彼らに手柄を立てさせて相続を決定付けるために兵を出した。
 いくらブライヒレーダー辺境伯と険悪でも、この時期の出兵は王宮側の非難が大きくなるので、ブロワ辺境伯が健在ならば行わないはずだ。

 次男であるクリストフの考えは不明だが、彼のシンパである文官が混じっていないので、彼も出兵には反対なのかもしれない。
 エリーゼの話によると一年ほど前に父親であるブロワ辺境伯から領地に呼ばれたカルラは、つい最近までは彼の世話でもしていたようだ。

 だが、急に諸侯軍の総司令官代理にされた。
 当然お飾りであったが、もし本当に指揮を任されても困るので、これで良いのかもしれない。

「(紛争絡みの大規模出兵って、代替わり直後とか、その直前に良く起こりますから)」

 現当主が明日をも知れぬ命で家臣達に動揺が広がったので、跡継ぎが己の力を見せるために兵を出した。
 または、襲爵直後に己の力を見せるために兵を出した。
 どちらも内部の不安を外に向けさせるための物で、これは某半島の反日政策とか、某お米の国の世界の敵認定に似ていると思う。

「(ただ、そうなりますと……)」

 勝てていれば裁定で有利な条件を得られたので、これはフィリップの功績となり、彼を支持する諸侯軍幹部の将来も明るかったはず。
 だが実際には、完全なボロ負けで戦前に持っていた利権を失うか、取り戻すのに莫大な和解金を払わなければならず、加えて多くの貴族や兵士達も捕まっている。

 身代金だけでも、かなりの金額になるはずだ。

 想像ではあるが、捕まっている彼らが掟破りをしてまで兵を出したのは、もし負けて捕まったり負けたりしてもその損害を補填するとかの密約があったのかもしれない。

 だがそうなるとブロワ辺境伯家の財布には大ダメージであろう。

「(更に悪い事にクリストフ殿を支持している文官達の姿がありません)」

 ブロワ家側の家臣達が武官なので、負けても金を支払う準備が出来ていない可能性があった。
 何しろ、予算を執行する文官がいないのだから。
 あったとしても、ボロ負けの上にブロワ家の財政に止めを与えかねない一撃である。
 その失態をクリストフ支持の文官達に突かれれば、最悪フィリップは後継者争いから転落という可能性も大きかった。

「(いくら向こうがバカでも、現実くらいは……)」

 見えているのかと思ったのだが、第一日目の裁定はただ双方が己の主張を言い合うだけで終了していた。
 元々普通はそうなのだが、この状況でブロワ家側が全く譲歩しなかったのだ。
 捕虜への身代金は払うが、紛争地帯の配分を無条件で戦前の状態に戻せと言い放ち、ブライヒレーダー辺境伯も含めて、参加しているこちら側の貴族達が話にならないと激怒したのだ。

「そちらが先に掟破りをして来たのですよ。それに反撃した私達がなぜ損をしなければいけないのです?」

 ブライヒレーダー辺境伯の言い分は、もっともであった。
 向こうも内心ではそう思っているのであろうが、無条件に不利な裁定案を受け入れた時点で、自分達の未来は終わるのだ。
 いくら時間をかけても、引き分け程度の裁定案を勝ち取ろうと足掻いているらしい。
 ただ、その裁定が長引けば長引くほど、ブロワ家側の財布には厳しくなっていく。

 進むも地獄、退くも地獄とはこの事であろうか?

「今は有利でも、こちらが兵を出せばまた不利になるぞ!」

「へえ。また兵を出して紛争案件を取り戻すと。宜しい、我らもその時は兵を出します」

 元々、攻撃側よりも防衛側の方が有利であるし、その時には俺やセイやヴェルやブランタークさんやカタリーナもまた出陣する。
 エリアスタンで麻痺させ、捕らえて身代金を要求する。
 人を殺さずに済んで、お金まで稼げてしまう大変に美味しい商売なのだ。

「ところで、バウマイスター伯爵のご意見は如何に?」

 ブライヒレーダー辺境伯が、ヴェルにも意見を言うようにと振ってくる。

「私としては、我が家で捕らえた捕虜の身代金さえ貰えれば。あとの利権を元に戻す和解金は、卑怯なだまし討ちをかけた各貴族家の方々に誠意を持って交渉するしかないでしょうね。勿論また何かあれば、寄り親であるブライヒレーダー辺境伯殿の要請で私も兵を出すでしょうし」

 ヴェルの言い分に交渉に当たっているブロワ家側の武官達は顔を真っ青にさせていた。
 また戦闘になって大量に捕虜など出たら、身代金で破産しかねないからだ。
 かと言って、ここで自暴自棄になって人を殺す戦争になれば、今度は王宮から待ったがかかる。
 今まで貴族同士の紛争が見逃されて来たのは、一部の暴走を除き極力人死にが出ないようにコントロールされてきたからだ。
 一種のガス抜きという扱いだから黙認されてきたわけで、それを破れば最悪ブロワ辺境伯家はお取り潰しの可能性があった。

「ファブレ伯爵の意見もですか」

「そうなります」

「バウマイスター伯爵殿は、他に何か?」

 ブロワ家側の重臣と思われる武官が、ヴェルに思わせぶりな口調で聞いて来る。

「いえ別に。ああ、ここのところ不足している人手を補うために結構人を雇いましてね。いやあ、ブロワ辺境伯家のように人材が充実していると羨ましいですね」

 初老の重臣は、更に顔を真っ青にさせていた。
 別にこちらには、無理に早く交渉を纏める必要などないのだ。
 急いで纏めようとして、ブロワ側家の思惑に乗る事の方が損なのだから。

「そういえば、喉が渇いたな。エリーゼ」

「はい」

 ヴェルの指示で、エリーゼがお茶を淹れて味方の人員に配り始める。
 お茶請けは、チョコレート菓子の新作だ。
 こういう席では、相手に余裕を見せるためにあえて優雅にお茶などを飲んだり、お菓子や軽食をつまむ事がある。
 だが、これは味方同士にしか配られない。
 もし敵方に飲み食いさせた後に運悪く急死などをされると毒殺を疑われるからだ。
 こういう席では、自分の飲み物や食べ物は自分達で準備するのが決まりであった。

「これは美味ですな」

「今度、ブライヒブルクの店舗にも卸すそうですよ。うちの御用商人が」

「それは羨ましいですな。是非に我がクリーガー子爵領内でも販売して欲しいものです」

「では、時期を見てその商人を伺わせましょう」

「それはありがたい」

「バウマイスター伯爵殿、我がクメッチュ男爵領も宜しく」

 わざと暢気にお菓子の商談などを行い、ブロワ家側の焦りと怒りを誘っていると、ついに我慢出来なくなったらしい。
 お互いに最初の条件を持ち帰り、明日にまた新しい裁定案を出すという結論になって解散となっていた。

「明日は、もう少し折り合えますかね?」

「さあ? わかりませんね。向こうとしては、最低でも引き分け判定に持ち込みたいでしょうし」

「その条件が、最初から無理なんですけど……」

「そこでそれを認めてしまうと彼らは揃って失脚です」

 自分達が支持する長男に跡を継がせるため、当主不予を利用して兵を勝手に出したのに、逆にボロ負けして莫大な金を払う羽目になった。

 そうでなくても開発利権から外れているのに、更に経済的なダメージを受けるのだ。
 次男支持の文官達からすれば、彼らを追い落とす決定的なチャンスとも言える。
 何しろ、ライバルが勝手に自爆してくれたのだから。
 最悪、御家取り潰しに全財産没収もありえる厳罰を覚悟しないといけない点が、次男からしても悪夢かもしれない。

「結局、多少時間はかかりますけど。こちらの裁定案を受け入れざるを得ないのですがね」

 こちらに、譲歩する理由などないからだ。
 一日目の交渉は、ただの顔見せであった。



 主人公一行紹介
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