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 10分。
 船は、無事に一箇所目の戦場に辿り着いていた。
 ブライヒレーダー辺境伯が最初に説明していた銅鉱山を巡って対立しているランセル準男爵家領とヘンケル準男爵家との境界線近くである。

 確かに境界線上にある銅山の前では三百名ほどのランセル準男爵家軍が陣を張って銅山を警戒しているようだ。
 銅山を良く見るとヘンケル準男爵家側の兵士がところどころで歩哨に立っていた。

「ようこそおいでくださいました」

 最初は突然の魔導飛行船の来訪に驚く両軍であったが、リッドを使者としてランセル準男爵家軍の本陣に送ると、すぐに本人が出迎えてくれる。

 ランセル準男爵は、四十歳ほどの普通のおじさんであった。

「ブライヒレーダー辺境伯殿からの援軍とか?」

「はい。早速、銅山を奪還しましょう」

「えっ? 大丈夫ですか?」

 銅山の奪還には賛成だが、それで犠牲が大き過ぎるのも勘弁して欲しい。
 ランセル準男爵の顔を見ると、すぐにそう考えているのが理解できた。

「要は、お互いに死者がゼロで終われば問題ないですよね?」

「はい。それが一番最良ですから」

 ならば、簡単だ。
 反乱軍の時と同じように、エリアスタンで麻痺させてから捕らえれば良い。
 取りこぼしも探知を使えば無いはずだ。

「では、まずは協定の締結ですね。ブリュア殿」

「あっ、はい。私、ブライヒレーダー辺境伯様からファブレ伯爵様への同道を命じられた軍監にございます」

 とある戦場に貴族が軍を率いて助太刀に向かうとある問題が発生する。 
 それは、手柄と戦果の認定とその分け前である。
 応援に来て貰って助けても貰えたのに、いざ戦争が終わると援軍に来た貴族の手柄を奪おうとする貴族も少なくなく、それが原因で発生するトラブルも多かった。

 そこで、今回のケースだとブライヒレーダー辺境伯が軍監を派遣して公式に戦果などを認定して記載するのだ。
 今回ブライヒレーダー辺境伯から派遣された軍監はブリュア氏といい、五十歳くらいの真面目そうな人であった。
 いかにも官僚っぽい人物だ。
 あとは、戦果の分け前に関する協定もある。
 捕虜や軍勢が所持していた装備品・備品・金品・食料などの権利に捕虜本人の身代金などの分配比率などであった。

「全員、痺れさせて動けなくするので、捕縛に協力してください」

「さすがは、竜殺しの英雄殿ですな……」

 反乱鎮圧の時と違って広範囲のエリアスタンとなるが、むしろ範囲や対象の選別が無い分、俺からすれば楽な部類に入る仕事であった。
 銅鉱山は大きかったが、人がいるエリアは限られる。
 俺一人でも、十分にいけるはずだ。

「痺れているヘンケル準男爵家側の兵士の捕縛の手伝いと捕らえた捕虜の面倒と再奪取した銅鉱山の守備はお任せします」

「それは勿論」

 一つ目はうちの人員だけでやっていると時間がかかるからで、二つ目は身代金の中に捕虜を養った費用が含まれるので、あとで経費を返して貰えれば問題ないそうだ。
 三つ目は、セイの探知によれば、銅山には三百人ほどのヘンケル準男爵家側の兵士が詰めているらしい。
 全員が捕虜になれば、銅山の守備はそう難しい事もないはずであった。

「これを機にヘンケル準男爵領の占領とかはしないのですか?」

「いえ。昔からの不文律で、禁忌に近い行為とされています」

 最初にヘンケル準男爵家側が侵攻して来た時、その気になれば他のランセル準男爵領の占領も可能であったが、向こうはそれをしなかった。

 いや、出来なかったのだそうだ。

「あくまでも、争っているのは銅鉱山の権利だけ。そうしないと争いにキリが無くなりますので」

 互いの領地に入って、領民を殺したり、女性を犯したり、畑を荒らし家を焼いたら、恨みの際限が無くなってしまう。
 あくまでも銅鉱山を巡る争いのみを行う形にする。
 他の利権などを争っている貴族家同士も、これは同じなのだそうだ。

「あまり争いが酷いと王家の介入も予想されますから」

 この場合、マシな裁定など期待できないそうだ。

「争いの元になるから銅山を王国が没収とか。昔は、そんな裁定も少なくなかったそうで……」

 あくまでも両家のみで利権だけを争っている。
 そういう姿勢を見せて、他勢力の介入を防いでいるのだそうだ。
 寄り親やブライヒレーダー辺境伯のような地域統括者は、同地域の貴族に手を貸し、手を貸して貰った貴族はその代わりに地域の安定に力を貸す。

 昔から、そういう関係になっているらしい。

「では、協定の締結を行います」

 結局、銅鉱山の利権にファブレ男爵家は一切関わらない。
 その代わりに戦闘不能にしたヘンケル準男爵家軍の持ち物と捕虜の権利はファブレ家側が全て取る。
 あとで、預かった捕虜の管理にかかった金額をランセル準男爵家がこちらに請求する。
 他にも細かな補足などがあったが双方で合意に達したので、ブリュア氏が急ぎ契約用の羊皮紙に記載を行い、俺とランセル準男爵家がサインをする。

 この世界では既に紙が庶民にも普及していたが、こういう大切な契約書類などでは今でも羊皮紙を使う事が多かった。

「では、早速に」

 ここと同じような状況になっている場所は多く、なるべく早く解決するために俺達はすぐに作戦を開始する事にする。

「魔法使いはいるのでしょうか?」

「はい。鉱山に攻めて来た時に火の矢を飛ばしている者が。多分、臨時で雇われた冒険者だと思いますが……」

 準男爵家くらいだと極稀に初級くらいの魔法使いを一人抱えているくらいだそうだ。
 ランセル準男爵によるとヘンケル準男爵が今までに魔法使いを家臣にしたという情報も入っていないそうで、今回の出兵に合わせて臨時で雇ったのではないと語っていた。

「一緒に痺れさせますから意味無いですけど」

 これがブランタークさんクラスの魔法使いだと、こちらのエリアスタンをレジストして反撃してくる可能性がある。
 だが、証言通りだとすれば、そう心配する必要も無さそうだ。

「準備は良いな?」

「はい」

 モーリッツが指揮しているファブレ伯爵家軍に、ランセル準男爵が率いる軍が銅鉱山前に姿を見せると防衛しているヘンケル準男爵家側の兵士達に緊張が走る。

「(いくぞ!)」

 だがその緊張も直後にエリアスタンによる痺れで途切れてしまった。
 鉱山にいる全員が麻痺して、その場で動けなくなってしまったのだ。

「突入!」

 両軍の指揮官による命令が下り、麻痺しているヘンケル準男爵家軍の捕縛と銅鉱山の完全占領が始まる。

「さてと。あとはお任せしますか」

「はい……」

 俺の出番はもう終わりだし、ランセル準男爵がわざわざ陣頭に立つ必要も無い。
 これ以上の出しゃばりは、部下の仕事を奪う事になるからだ。
 そこで、魔法の袋からテーブルや椅子を取り出し、彼やその側近をお茶に誘っていた。
 ヴィルマがテーブルや椅子をセットし、ハクカが取り出したティーセットを使ってお茶を淹れ始める。
 ちなみにリッドとファラとリーリンは監視役としてモーリッツ達に付いて行った。
 万が一にも、麻痺していない兵士に反撃された場合に備えたのだ。
 あと、セイも椅子に座ってお茶を飲んでいた。
 どうせ鉱山に行ってもする事がないし、高位の魔法使いはこういうお茶会に出ると歓迎される。
 貴族同士のお茶会というのも、なかなかに面倒なのだ。
 リッドとファラとリーリンは家臣として現地に向かった。
 ヴィルマはアスガハン準男爵の3女なので残ってハクカの手伝いをしていた。
 ハクカ本人は現時点だと正妻なので言うまでもなかった。
 ランセル準男爵や側近達もハクカが自らお茶を淹れているので恐縮しているくらいだ。

「ファブレ伯爵殿の奥方自らとは恐縮です」

「お気になさらずに」

 続けて、チョコレートやお菓子なども出すと彼らは興味深そうに口に入れていた。

「噂には聞いていましたが、美味しいお菓子ですな。子供達に少し持ち帰っても宜しいでしょうか?」

「どうぞ」

 お土産用に多めに渡すとランセル準男爵は嬉しそうに従兵の少年に渡していた。

「ところで、突然の占拠だったとかで?」

「ええ。昔からあの鉱山の利権比率では、定期的に争いが起こっていたのですが……」

 当然双方の主張は、『あの鉱山はうちの物だ!』である。
 ただそんな事は現実的に不可能なので、北側をヘンケル準男爵家側、南側をランセル準男爵側という事にしているらしい。

「それでも、争いが起こるのですか?」

「一種のガス抜きと申しましょうか……」

 代替わりなどがあると新領主の力を見せ付けるのだという理由で、兵を出して睨み合いになるのだそうだ。

「それでも、通告はちゃんとするのですよ」

 『この鉱山はうちの物だ! 何日までに兵を出すから首を洗って待っていろ!』と半分様式美のような物らしい。
 それで双方が兵を出して別の境界線で睨み合い、五名ほど代表者を出して腕比べを行う。
 勝った方が、次の出兵までは鉱山で有利な採掘が可能なのだそうだ。

「境界線上に所属が微妙な鉱脈がありましてね。そこの権利を得られるのです」

「完全に練習試合ですね」

「過去には血みどろの戦闘になって、双方合わせて百名以上の犠牲者を出したそうです。なのに痛み分けで得る物はなく貴重な家臣や領内の若者達が死んだ。こういう形式になったのは、先人の知恵なのでしょう」

 せっかくの鉱山も掘る人が死んでしまえば意味が無いから賢い選択なのかもしれない。
 それが、突然の奇襲と鉱山の完全占拠である。
 他の貴族家同士も同じようなルールで戦っている場所が多かったそうだがそれが全て破られてしまい、みんな困惑しているとの話であった。

「やはり、ブロワ辺境伯家ですか」

「みたいですね」

 それから約二時間後、リッド達が戻って来て鉱山にいた全員の捕縛に成功したと伝える。
 あとは、長対陣に備えた食料や水、武器や生活用品、恩賞用の宝石や現金など、大量の物資の鹵獲にも成功したようだ。

「ランセル卿。従士長のフリックス殿は、鉱山の守備に入るそうです」

「承知した」

 リッドの報告に、ランセル準男爵は貴族らしく鷹揚に頷いていた。

「防衛は大丈夫ですね。ヘンケル準男爵家は兵力が……」

「ええ。八割以上は、無効化されましたからね」

 三百人の守備兵が篭もる鉱山を落すのに残存戦力数十人ではどうにもならないはず。
 現時点で、ヘンケル準男爵家は敗北したも同然なのだ。

「それとヘンケル準男爵が捕えられました」

「あの場に居たのか!」

 ランセル準男爵の情報収集によるとヘンケル準男爵は後方で指揮を執っていて鉱山には居ないとの情報であったらしい。
 なので、ヘンケル準男爵本人が捕まったと聞いて驚いているようだ。

「視察にでも来ていたのでしょうか?」

「そんなところでしょう。ファブレ伯爵殿としては、身代金が増えて結構だと思いますよ」

 とりあえずは成功したが、まだ先は長い。
 ブライヒレーダー辺境伯から貰った地図によると、ここと同じような紛争地域はまだ何十箇所もあるからだ。
 あとは、ブロワ辺境伯本軍から援軍が送られる可能性もある。
 ブライヒレーダー辺境伯本軍と睨み合いとはいえ、他から援軍を送る可能性もあるのだ。
 もしこれが来たら、その軍勢の相手もする必要があった。

「ランセル準男爵殿、私は次の戦場へと向かいます。それで、守備の方は大丈夫でしょうか?」

「はい。もしブロワ辺境伯軍が援軍を送って鉱山の再奪取を図ったとしても、千人以上はいないと難しいので」

 攻撃側は、守備側の三倍以上の兵力が必要だという法則は、この世界にも存在しているようだ。
 それとブロワ辺境伯軍側も、この鉱山を落すのに多大な犠牲を出しては意味が無いのだと。

「ヘンケル準男爵家も残存戦力を考えると治安維持で精一杯でしょう。跡取り息子が残っているそうですが、領内の統治で大忙しでしょうし」

 鉱山で捕らえられた中には、ヘンケル準男爵領の統治を支える家臣達も含まれていたらしい。
 当然、人手不足に陥っているわけだ。
 あと、一般兵士の大半は徴兵された領内の農民達などである。
 彼らの不在で、ヘンケル準男爵領の生産力や税収が落ちる可能性も高い。
 まさに、踏んだり蹴ったりであろう。

「このまま裁定が下るまでは、鉱山を死守します」

「では、捕虜の管理をよろしくお願いします」

「任せてください」

 ランセル準男爵に捕虜の管理を任せると今度は次の紛争現場へと移動を開始する。
 数時間後、俺達は魔導飛行船の上から河の中州を占拠する数十名の軍勢と、それらと河岸から睨み合っているぼぼ同数の軍勢を発見していた。

「ええと中州に軍を置いているイェーリング卿がブロワ家側で、南方の河岸で牽制しているのがお味方のベッカー卿です」

 軍監として同行しているブリュア氏は普段は紋章官をしているそうで、この南部の零細貴族の当主や子息達に主だった家臣などの顔と名前、その経歴などを全て記憶しているそうだ

 何しろ、この国の貴族は多い。
 そこで、大物貴族家は紋章官を必ず抱えていて、彼らは主人が初見の貴族に会う前には必ず情報をレクチャーするのだそうだ。
 今回、彼が軍監になったのも俺が多くの貴族を知らないのでそれを補うためでもあったようだ。

「共に騎士爵を持つささやかな領地を経営する貴族様です」

 零細とか貧乏とか直接的には言わず、ささやかという部分が洗練された大物貴族家の紋章官らしかった。
 紋章官という役職名で呼ばれるのは、昔は戦場で敵貴族の武具に記された紋章から、その人物を特定する仕事をしていたからなのだそうだ。

 今は戦争が無いので、同国に多数存在している味方貴族やその家族などの情報を集め、主君に必要に応じてレクチャーする。
 数千から数万の貴族に関する情報を記憶するので、家には代々記憶方法に関する秘伝が伝わっているらしい。

 物語法とか、頭文字法とか、語呂合わせとかが秘伝なのであろうか?

 昔から物覚えは普通な俺からすれば、大変に羨ましい能力ではある。

「ここも睨み合いか……」

 両軍が睨み合っているのは、中州の所有権で揉めているかららしい。
 昔は河を挟んで領地が分かれていたが、ある日洪水になって急に中州が出来た。
 当然、共に領有権を主張して揉めたそうだ。

「農地とかにしても、実入りが少なそうな……」

 リッドは、数十名の軍勢で陣を敷くと余剰スペースがなくなる中州を見て溜息をついていた。

「とはいえ、それを主張せずにいられないのが貴族様かと」

 領地を持つ貴族が、『どうぞどうぞ』などと言うのは論外だそうで、だが争ってもそう利益が出るはずもなく、今までは共に中州には立ち入り禁止にしていたそうだ。

「ですが、数年前から揉めていましてね」

 農地転用とかではなく、その中州で漁をすると魚が多く獲れるそうで、勝手に入った双方の領民達の間で諍いが発生していたらしい。

「それ以降、夜中に勝手に中洲に入って魚を獲った、獲らないだので、喧嘩レベルの争いが絶えないそうです」

 双方の領主達もプライドもあって兵を出さずにはいられなかったのであろう。

「ただ、中州の占拠はやり過ぎです」

 ブリュア氏の一言に尽きるが、こんなところまで占拠させてブロワ辺境伯は何を考えているのであろうか?

「とっとと済ませますか……」

 手順は、先ほどと変わらない。
 エリアスタンで麻痺させてから、捕虜にして中州を味方のベッカー卿の軍勢に占拠させるだけだ。

「今度は、私がやるわ」

 今度は中州で、銅鉱山ほど広くは無い。
 なので、セイに任せる事にする。
 彼女が魔法を発動させると中州にいたイェーリング卿側の軍勢が倒れて動かなくなり、一時間としない内に全員が捕縛されていた。

「大変に助かりました」

 ベッカー卿からお礼を言われ、占領地と捕虜の管理を任せて次のポイントへと向かう。
 同じ作業なのであとは省略するが、俺、セイで順番に麻痺させ、現地の味方と一緒に捕縛する作業の繰り返しだ。

「出たな! 竜殺しの英雄め! 我こそは、『火壁』と呼ばれた……あべし!」

 たまに、エリアスタンをレジストして向かって来る魔法使いもいた。
 だが、そういう輩もすぐにノックアウトされて捕虜の仲間入りとなる。

「名乗りくらい聞いてあげたら?」

「時間の無駄かな」

 『火壁』を名乗る魔法使いは、初級と中級の間くらいの魔力しか持っていない。
 もし名乗りをあげてから対戦しても一分と保たなかったであろう。
 彼は、スタンウィップと名付けた電気の鞭魔法に絡め獲られ、すぐに意識を失ってしまう。
 それから6日ほど、俺達は西から東へと境界線で睨み合っている貴族同士の紛争に介入し、ブロワ家側の軍勢をエリアスタンで麻痺させ、捕らえて大量の捕虜を得る事に成功する。
 紛争案件である利権や領地など大半を味方側に占領させて守備を任せたのでブロワ家側は青色吐息のようだ



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