様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 俺たちが飛行すること約1日。

「ようやく、見えてきた。あれもトニーと同じやつか」

「そうであるな」

 巨大な黒い巨人がいた。

「大きいね」

「ああ」

 ハクカのいうとおり、直径80m、高さ15mくらいである。

「あ・・・ヴェルたちだ」

「ほんとだ」

 その黒い巨人が、ヴェルめがけて拳を振るう。

 ドカ、ドカ

 魔法障壁に遮られて、効果はなさそうだ。
 
「某は、空から攻撃を仕掛けるである」

 導師がそういうと炎の蛇をぶち当てた。

「効果、なさそうだな」

「ええ」「うん」

 導師の攻撃は、まるで効果ない。
 俺とハクカとセイは、空から降りてヴェルたちが張った魔法障壁の中に入った。

「久しぶり」

「おう・・・って、挨拶している場合じゃないだろう」

「そうだな、ハクカ、セイ」

「うん」

「任せて」

 俺とハクカとセイも聖魔法で攻撃に加わることにした。
 多少の効果はあるらしく、直径40m、高さ8mまで縮んでいた。

「これなら」

「駄目よ」

 セイの声に何事かと思っていたら、黒い煙が漂ってきて、それに黒い巨人に吸収され、これ以上小さくならないようだ。

「導師!」

「何事であるか? ブランターク殿」

 巨人の周囲を飛びながら牽制を続ける導師にブランタークさんが事情を説明する。

「なるほど、この開けた未開地が逆に仇となるとは!」

「開けていても怨念ってそんなに早く飛んで来るんですか?」

「普通の物ではない故に怨念の凄さは集める人間の恨みの深さに比例するのである!」

 少量の怨念は、普段は透明で人間にも動物にも見えない。
 怨嗟の笛で呼ばれて近くに来た時に初めて黒い煙状になって人間に影響を及ぼすようになるのだそうだ。

「怨念が深ければ……。そう、この未開地で縁起の悪い土地や魔の森からも集まって来るであろう!」

「恨みは恨みを利息付きで呼ぶのである!」

「絶妙な例えですね」

「それで、どうしましょうか?」

「簡単な事である! 某が、聖魔法を使えば良いのである!」

「えっ? 導師って、ちゃんとした聖魔法を使えたんですか?」

 衝撃の事実であった。
 究極の戦闘マシーンで、強力ながらもほぼ対単体用の魔法しか使えない導師が、以前に自ら苦手だと明言していた聖魔法を使うというのだから。

「いや、我が四十年と少々の人生において、僅かな期間しか聖魔法を試みた経験が無いのである!」

 その時に、あまりにショボい聖光しか出なかったので、それ以上の訓練を諦めてしまったそうだ。

「あのようぉ……。導師」

 俺を含めて全員が脱力してしまい、ブランタークさんが代表して抗議の言葉を述べる。

「前に全然駄目で、今も普通に使えるかどうかが不明なうえに聖魔法ってのは、使えても慣れるのに時間がかかるんだからよ」

 元から熟練度が低いのに、もし使えてもいきなり黒い巨人に通用するような聖魔法など出るはずもなく。
 導師の作戦は、無謀以外の何物でもなかった。

「最悪、一時撤退が妥当だろうな」

「いや、それは駄目ですよ」

「とはいえ、ヘルマン殿よ」

 犠牲者は出るかもしれないが、ここは一時撤退して再び魔力を回復させ、リベンジに臨む。 
 確かに一番現実的な作戦かもしれない。
 だが、バウマイスター領に出る犠牲を考えるとヘルマンさんとしては反対意見を述べるしかなかった。

「某が、聖魔法を成功させれば良いのである! バウマイスター男爵よ。アルフレッドの本を!」

「そこからなんですね……」

 ヴェルがイーナに向かって頷くと彼女はヴェルの魔法の袋からアルフレッドから貰った本を取り出し、導師に向かって放り投げる。
 それを受け取った導師は、上空に浮きながら聖魔法の項目を読み始めていた。

「なるほど、さすがはアルフレッド。実にわかり易いのである!」

「マジかよ……」

 エルの突っ込みを聞かなかった事にしつつ、再び導師に視線を向けると彼は、上空で何か踏ん張るような動作を行っていた。

「頭の血管が切れるんじゃないか?」

 エルがまた酷い事を言っていたが、俺から見ても血圧を上げているようにしか見えなかった。

「駄目そうだな」

 約三十秒後、ブランタークさんが匙を投げたのと同時に導師の状態に変化があった。
 突然、導師が前に突き出していた両腕から青白い光が湧き上がり、続けて手の平から聖光で出来た矢が飛び出したのだ。

「一応、本当に聖魔法だな」

 ブランタークさんは、導師が一応は聖光を放出可能な事を認めていたが、その表情には呆れに近い物が浮かんでいた。

 なぜなら……。

「小さい! 挙句に遅い!」

 導師の気合の入れようは相当な物であったが、その割には聖光の矢の大きさはキュウリ程度で、その速度も人が歩く速さと大差はなかった。

 導師の両手の平から放出された聖光の矢は、ゆっくりとした速度のまま黒い巨人に当たり、僅かな黒い煙を浄化して消える。
 正直、本当に黒い煙が消えたのかは、遠くにいる俺達には確認できなかった。
 一応発動はしているので、全く効果が無いないはずは無いのだが。

「導師……」

「二十年ぶりに試してみたが、以前よりは威力が上がっているのである! 好機!」

「おい……」

 再び全員が脱力し、ブランタークさんが冷静に突っ込みを入れている中、導師は気にもせずに気合を入れて聖光の矢を連続して発射していた。

 ところが、何発撃っても黒い巨人は気にもせずに己の回復に集中している。
 導師をまるで脅威と感じていないのであろう。
 完全に無視されていた。

「あの人、物凄くポジティブだよなぁ……」

 エルの言う通りで、ブランタークさんからの冷たい視線など気にもせず、導師はキュウリ大の聖光を連続で発射していた。
 当然、命中しても黒い巨人に目立った変化は無い。
 相手の大きさに対して、導師の聖光の矢の威力が低過ぎるのだ。

「導師、魔力が勿体ねえよ」

 ブランタークさんからすれば、最悪、撤退するにしても導師には魔力を温存しておいて欲しいのであろう。
 これ以上無駄な事はするなと軽く釘を刺していた。

「いやしかし……。ここで、あの黒い巨人を食い止めねば……」

 導師もヘルマンさんと同じ意見らしい。
 ここで黒い巨人を始末しないとバウマイスター領に被害が出ると思っているようだ。

「ヴェル、何か策はないの?」

「策ねえ……」

 ルイーゼは簡単に言ってくれるが、魔法使いが魔法を習得する時には、己の想像力やセンスに大きく影響される。
 ここでヴェルが使う方法を知らせたとて、導師に効果があるとは思えないのだ。

「ルイーゼ、魔法は個性その物だと教えただろう?」

「個性か。じゃあ、導師の個性って?」

 導師の戦法を見るに己の戦闘能力を極限まで魔法で強化して単体で戦う究極の魔法闘士と言える。
 とにかく相手を直接ぶん殴り、放出系の魔法は苦手なようで、蛇の形をした高集束弾は牽制が主目的になっている。
 苦手とはいえ、あの魔力量なので威力はそこいらの中級魔法使いなど相手にもならない威力ではあったが。
 それを踏まえると俺は次第に、そんな導師が聖光を矢にして飛ばすこと自体が間違っているような気がしてきた。

「無理に矢にして飛ばすから駄目なのか?」

「おおっ! 我が弟子ながら素晴らしい意見である! では、早速に!」

「あの……。導師?」

 遠方からボソっと呟いただけなのに、それを聞いた導師は早速に再び気合を入れ始める。
 己の魔力を燃やして発生させた聖光を、その身に纏って循環させる。
 多分、そんなイメージを続けているのであろう。
 導師の体の周囲に徐々に青白い炎が纏わり付き始めていた。

「何か急に凄くなったけど、物凄く変!」

 ルイーゼの言う通りで、青白く光る炎は聖魔法で間違いなかったが、炎の形で具現化させる人は、間違いなく導師だけであろう。

「うむ。どうやら、聖光を放出はしない方が威力が上がるのである! ならば!」

 己の聖魔法の特性に気が付いた導師は、体に纏わせている聖光の出力を更に上げ、そのまま巨人の体に抱き付くという無茶な攻撃を開始する。

「おい、具現化した怨念に直接触れると死ぬんだけどな……」

「というか、普通に殴れば良いのに……」

「それでも、拳に怨念が直接触れると死ぬけどな」

「……」

 聖光をバリアーにしつつ、同時に体から放出する聖光で黒い巨人の体を直接焼いていく。
 一番効率の良い手ではあるのだが、下手に出力が落ちて体が黒い煙に触れると即死するので、あまりお勧めはできない戦法であった。
 というか、いきなり本番でやるの危険だと思うのだ。

「しかし、何であんなに攻撃的なんだろうな」

「俺は、アンデッドに抱き付く時点であり得ません」

「だよなぁ……」

「私も、さすがにそれは……」

「私も無理だよ」

「だな」

「うん」

 ブランタークさんの言っている事は、俺たちには良く理解できた。
 聖魔法とは、基本的にアンデッドを相手にする系統魔法である。
 なので、直接ゾンビやレイスを殴ったり、果ては直接抱き付くなど考えにも入れないわけだ。
 だから、聖光を飛ばしたり、エリア浄化などが発達しているのだ。
 そのせいで導師はその習得に苦戦し、一時は諦めてしまったようであったが。

「6人同時の聖魔法にて、地獄に落ちるが良い!」

「あの伯父様……。『悪事を悔いて天に昇り、次に生まれる時には』です……」

 エリーゼからすると導師は魔法では尊敬できる伯父なのだが、神への信心で言うと実はあまり褒められた存在ではないようだ。
 そもそも、あの年齢で二十年以上も聖魔法を試みていない点からして、明らかに教会と関わりたくないと思っている可能性があった。
 聖系統をちゃんと使える魔法使いには、教会からのアプローチが煩いからだ。
 その辺も二十年以上も習得を放置していた理由かもしれない。

「ヴェンデリン!」

「某が死んだ時に、こんなのが先輩面していると鬱陶しいのである! 地獄に落ちるのである!」

「導師って、天国に行く気があるんだ……」

「ヴェンデリィーーーン!」

 エルの突っ込みを聞かなかった事にして、導師が、その体の周囲に放出する聖光の威力をあげると、まず抱き付いた黒い胴体の部分から、急激に黒い煙が浄化されて消えていく。
 続けて、俺とハクカとセイとヴェルとエリーゼが一気に浄化魔法の出力を上げると黒い巨人は足元から徐々に消えていってしまう。
 そして、その消滅が胸部に埋め込まれたクルトのレイスにまで及んだ時、今までに聞いた事が無いような断末魔の叫び声が聞こえていた。

「ヴェンデリィーーーン!」

「ふむ。悪は、滅ぶのである!」

 最後に巨人の頭部も完全に消えてしまい、これでようやく黒い煙の巨人は完全消滅したようだ。

「だが、我らの魔力も限界ではあるか……」

 予想以上の苦戦に魔法障壁を展開していたブランタークさんも含め、ルイーゼを除く魔法使い全員が魔力不足で疲労困憊の状態になっていた。

 だからなのであろう。

 油断もあったと思うのだが、思わぬ失敗をしてしまう事になる。

「バウマイスター男爵。あの魔道具が落ちていたのである!」

 導師が、黒い巨人が立っていた場所でクルトが吹いていた魔法具のオカリナを発見していた。
 見た目は完全に黒焦げであり、一度しか使えない魔道具なので、今はただの焦げたオカリナになっていたのだ。
 それでも証拠にはなるはずとヴェルが取ろうとした瞬間、オカリナの内部に潜んでいた僅かな黒い煙の塊が突然飛び出し、恐ろしい速度で、山脈上空に向けて飛んで行ってしまう。
 方角は間違いなく王都方面であったが、今の俺達では魔力不足で追う事も侭生らない状態であった。

「導師、どうしましょうか?」

「あのような残りカスでは、出来る事などたかが知れてるのである! 教会に任せてしまえば良いのである!」

「それもそうですね」

 誰のせいで俺たちがこんなに苦労しているのかを考えると怨念の残りカスくらい教会に任せても構うまいと思う事にする。
 そして何より、俺にはもっと大変な仕事が残されていた。

「父やフェイト義姉さんに伝えないといけないな」

「俺も父やアマーリエ義姉さんに、報告しないとな」

 トニーが、俺の暗殺を試みて失敗して死んだ。
 トニー本人には罪悪感など感じなかったが、父や特にフェイト姉さんや甥には、罪悪感を感じていた。

「それは、ヴェルやルーク様が言わないとな。エックハルト達の家族には、俺から説明しておく」

「ヘルマン兄さん……」

「クルトに協力して、使い捨てにされて殺された。正直に言うのは、気が引けるなぁ……」

「とはいえ、暗殺未遂事件の共犯だ。無罪放免とは言えないぞ」

 パウルさんは警備隊勤務らしく、誤魔化して無罪にするのは不可能だと断言する。

「わかってはいるんだがな」

 まだ大仕事が残っていたが、とりあえずはトニーに関するアクシデントの最大の山場は、これでようやく終了となるのであった。



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