様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「あのう……トニー様」

「何だ? エック」

 何とか情報を入手した本日のルーク一行による未開地への視察。
 場所は大分奥のようで、ここならば例の『竜使いの笛』とやらを使っても問題ないはずだ。
 今回、俺に同行している連中は五名。
 俺と同じく後が無いエックに比較的老齢の豪農が四名と。
 みな、ルークが来る前のファブレ領を支持している連中であり。
 皆、戦時招集される時に着る槍や剣や鎧を装備して、俺の計画に参加していた。
 最初は、密かに計画を実行するために単独での行動も考えたのだが。
 このくらいの人数で、このくらいの準備をしないと未開地の野生動物は俺達にとって脅威であったからだ。

「本当に暗殺など成功するのですか?」

「するさ。この『竜使いの笛』ならな」

 確かにルークの魔法は恐ろしい威力を持っている。
 だが、いくら奴でも数の暴力には勝てないはずだ。

 『竜使いの笛』は、周辺の飛竜やワイバーンを呼び寄せる。

 あの山脈に住む竜を大量に呼び寄せれば、いくらルークとて生き残れないはずだ。

「そんなに大量の竜を魔物の領域から引き剥がしても大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫だ。俺達はな」

「ええと……。それは、つまり……」

 相変わらず、察しの悪いバカな男である。
 鍛冶屋としても二流で、家臣にするにしても二流とは。
 まあ、無能な方が俺に捨てられないように頑張るかもしれないからな。

「それなりに被害は出るだろうな」

「そんな!」

「おいおい。何か特別な事を成すのに何もリスクを取らないつもりなのか?」

 確かに今ここでルークに向けて『竜使いの笛』を吹けば、山脈から大量の竜が飛来してルーク一行はおろか、大量の領民達を殺すであろう。

「だが、俺達が生き残れば勝ちなのさ」

 ルークの遺産を継ぎ、あのクソガキに媚を売るようになった領民達も、親父も、生意気なルパンや分家の人間も抹殺し。

 一から、新しいファブレ領が始まるのだ。

 いや、生まれ変わるのだと。

「しかし、家族が……」

「そんな物は、また作れば良いだろう?」

 年老いた魅力の無い女房など新しいファブレ領に相応しく無いのだ。

「俺とエックは、まだ三十代半ば。残りの連中も、まだ五十歳にはなっていない」

 俺も、エックも、他の連中も。
 新しい統治体制に合わせて、若い嫁を貰えば済む話だ。
 子供など、また作れば良い。

「エック。新しい従士長には、新しい妻が必要だと思うがな。他のみんなも、それぞれに家臣として働いて貰う。何か異存はあるか?」

「いえ、我らはトニー様の命に従うのみです」

 そうだ、それで良いんだ。

「トニー様」

「来たか……」

 無理をして、早めにこの場所に伏せていた甲斐があったという物だ。 
 視界の先では、ルーク達が何かを話ながら土地の状態などを確認しているようだ。

 随伴は、いつものメンバーに。

 何を貰う約束をしたのか?

 意地汚い乞食のように護衛しているグラム達と想定外ではあったがルパンも数名の従士と共に周囲を固めていた。

「ルパン様がいますね」

「丁度良い。弟に媚びるバカは一緒に死ね!」

 もう憂いは無い。
 ルークも、それに媚びるルパンもグラムも。
 クソな親父も、バカな領民達も。
 全て、この『竜使いの笛』を使って浄化する時が来たのだ。

「では、いくぞ」

 『竜使いの笛』の口に咥えて息を吐くと、すぐに聞きなれないメロディーのような物が流れ始める。
 音の質は、普通のオカリナを吹いたのと同じような感じであった。
 俺には、楽器の素養などなかったが。
 三日前に森で遭遇した陰気な冒険者が言う通りで、魔道具なので口に咥えて少し息を送り込めば、メロディーが出る仕組みになっているそうだ。

 あと、このメロディーは、笛から音が出ているのかを人間が判別するために出ているらしい。
 竜を怒らせる音とは、人間の耳には本来聞こえない物なのだそうだ。
 だが、そんな事はどうでも良いのだ。
 あの小生意気なルークさえ死んでくれれば。
 ただそれで十分なのだから。

「一体何を?」

 さすがに、一流の魔法使いや冒険者が揃っているだけのことはある。
 オカリナの音から、ルーク達は俺達の存在を見付けていた。
 だが、もう手遅れなのだ。
 もう既に竜はこちらに向かっているはずなのだから。

「何かを呼び寄せる笛?」

 ブライヒレーダー辺境伯の飼い犬が、俺が吹く『竜使いの笛』を見て呟いていた。

「まさか、『竜使いの笛』では?」

「それは、滅多な事では手に入らないはずよ。何か、他の物を呼び寄せる魔道具だと思います」

 この魔道具の正体に気が付いたのは、紫色のローブを着た大男であった。
 だがそれをバカなブライヒレーダー辺境伯の飼い犬が否定してしまう。
 本当に賢いつもりのバカには笑うしかなかった。
 判断を誤って、そのまま竜の大群に食い千切られれば良いのだ。

「あれ?」

 ルークの側室のハクカが何かを見付けたらしく、空を指差していた。
 多分、山脈に住む竜達がこの笛に呼ばれて集まって来たのだ。

「(お前らの命は、今日までだったようだな!)」

 竜の大群に襲われ、多勢に無勢で喰われるルーク達に壊滅するバカな領民や家族達。
 だが、そこからファブレ領を復興させる中興の祖となる俺。
 最低でも伯爵になり、広大な領地に多数の新しい領民達。
 側室も多数含めて多くの若い妻達に囲まれ、毎日貴族に相応しい贅沢な生活を送る。
 そしてそんな俺にブライヒレーダー辺境伯や中央の貴族達も一目置くのだ。

「(俺のために、みんな死ね!)」

「あのトニー様……」

「(何だ?)」

 人がせっかく気分良く笛を吹いているのに邪魔をしてくるバカがいる。
 相変わらず使えない、愚か者のエックであった。

「あれは、竜ではないのでは……」

「(はあ?)」

 竜を呼ぶ笛なのに竜ではない物が来ているとエックも他の連中も騒ぎ始めていた。
 そんなわけがあるかと空を見ると全方位の空から何か黒い煙のような物がこちらに迫って来ているのが見える。

「(何だ? あの黒い煙は?)」

「トニー様?」

 その黒い煙のような物は、笛の音によってかなりの広範囲から引き寄せられているらしい。

 大きさは、小さい物は小石程度で大きくても拳大くらいであろうか?

 ただ数が尋常ではなく、それが雲霞のように群れでこちらに迫っていたのだ。

「笛を吹くのは、止めた方が宜しいかと……」

 何をバカな事を。
 竜ではないかもしれないが、あの禍々しさならばルークを確実に殺せるはず。
 何より、俺はあの黒い煙の被害を受けないのだから。

「(それに見てみろ! ルークの慌てようと言ったら無い!)」

 次第に集まって来る黒い煙の塊にルーク達は慌てて魔法で防御を開始していた。
 つまりは、それほど危険な物という事だ。

「トニー様! もうこれ以上は!」

「何だ? これは!」

 笛を吹いている間、俺を守るようにと命じていたエック達であったが、所詮は卑しい平民。
 黒い煙の群れに恐怖して、その場から逃げ出そうとする。
 だが、こちらに向かって来る途中の黒い煙の群れに捕まってしまい、その体を覆い隠されてしまう。

「トニー様ぁーーー!」

「助けてぇーーー!」

 エック達から断末魔のような叫びが聞こえ、俺はこの笛がルークにも使えると確信する。
 せっかく家臣にしてやると言ったのに恐怖で逃げ出した愚か者達であったが、あの黒い煙の効果をその身で示してくれた点だけは使えたようだ。

 俺が伯爵にでもなったら、良い墓を建ててやるとしよう。

「(この黒い煙が、ルーク達の魔力が尽きるまで攻撃を続ければ……)」

 いくらルークとて、数の暴力には抗えまい。
 竜を呼ぶ笛ではなかったが、使える魔道具だったので良しとしよう。

「(このまま、ルーク達を攻撃するんだ!)」

 俺は、更に息を篭めて笛の音を大きくする。
 空を見ると、まだ周囲からは黒い煙の群れが集まっているようで、それはまるで蝗の群れがこちらに向かって来るかのような感覚に似ていた。

「(エック達は、死んだか?)」

 エック達を襲っていた黒い煙は既に標的から離れ、新しく集まって来た黒い煙と合流して、俺の周囲にまるで竜巻のように集まっていた。

 俺はちょうど黒い煙の竜巻の中心地にいるようで、全くその影響を受けていない。
 一方、ルーク達は懸命に魔法で黒い煙を防ぎ続けているようだ。

「(死んだようだな)」

 エックを含めた五人は、もう死んでしまったようだ。
 ピクリとも動かず、肌も土気色になっていた。

「(この黒い煙は何なのだろうな? まあ、使えるから良いか)」

 さて、このまま次はルーク達をと思ったその時。
 ふとエックの死体を見ると手足がピクピクと動き始めているのを俺は確認する。

「(実は、生きていたとか?)」

 エック達は始めは手足を動かしていただけであったが、今度はノロノロとであったが、立ち上がって顔をこちらに向けていた。

「(生きていたか。まあ、家臣にはしてやるっ!)」

 だが、起き上がったエック達の顔を見て、俺は明らかに何かがおかしいと感じる。
 彼らの目の焦点はまるで合っておらず、口からは涎を、鼻からは鼻水を加えて糞尿すら漏らしているようで、次第にその嫌な臭いが周囲に漂い始める。

「クイモノ!」

「ニクゥーーー!」

「(はあ? お前達、一体どうなって!)」

 五人は、よたよたとした足取りで俺に向かって歩いて来る。
 更に、人を食い物扱いとは、暫し混乱した後に、俺はある事を思い出していた。

『ファブレ諸侯軍の戦死者は、ほとんどゾンビと化していたそうだ』

 最初に、ルークが冒険者としてここに来た理由。
 それは、遠征軍の戦死者が静かな魔の森でアンデッド化しているので、それを浄化するためであったはず。

『ゾンビは、人間が持つ欲望の。特に、食欲に特化してしまうらしい。早めに討伐して良かったな』

 親父は俺にルークが報告した内容を後になってから語っていた。
 その中で、ゾンビの生態についての話があったのだが、奴等は、食べても栄養にもならないのにひたすら食べ物を求め、時には共食いまでするそうだ。

「(もしかして……)」

 もう死んだと思ったエック達が突然起き上がり、『クイモノ』と言いながら、俺に向かってくる。
 つまりは、こいつらは黒い煙で殺されてゾンビとなり、俺を喰らおうとしているのではないかと。

「(バカな! 止めろ!)」

 慌てて奴等に止めるようにと声をかけるが、そういえば俺は笛を吹いているのであった。
 一旦止めようと笛を口から外そうとするのだが、更にとんでもない事実が判明する。
 笛が、口から外れないのだ。
 笛を吹くために添えた両手も同じで離れず、まずは音を止めようと息を止めても笛の音は止まらない。

「(魔道具だからか!)」

 一旦口を付けて息を送ると、目的を達するまで笛の音は止まらない可能性が、そう考えた次の瞬間、俺は体中に激痛を感じていた。

「ニクゥーーー!」

 ゾンビと化したエック達が、俺の腕や足や首筋に喰らい付いていたのだ。

「(こら! 離れろ! 次期領主に傷など付けて死刑だぞ!)」

 ところが、ゾンビ達は俺の体を貪るのを止めなかった。
 容赦なく体中の肉を食い千切り、俺はあまりの激痛に倒れこんでしまう。 

「(とにかく、逃げないと……)」

 だが、もう体に力が入らなかった。
 逃げようにも、周囲は竜巻状になった黒い煙で覆われている。
 なるほど、この笛は目標を殺す代わりに俺の命をも奪うようだ。

「(だから、中央の貴族など当てにならんのだ! ちくしょう! 俺の夢が! 希望が!)」

 ルークの遺産を使って、ファブレ領中興の祖となる。
 夢が音を立てて崩れ落ちるのを、俺は感じていた。

「(こうなったら! 犠牲は一人でも多くだ! 死ね、ルーク! 死ね、ルパン! 死ね、リョウ!)」

 俺が人生の最後に見たのは、首筋の急所に喰らい付こうとするゾンビ化したエックの大きな口であった。



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