様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「あーーーあ、せっかくの休みがなぁ……あとで代休を貰わないとな」

「俺も休みを中断して来ているんですけど……」

「辺境伯様は貴族、俺は雇われている家臣だ。その差は大きいな」

 愛娘との楽しい時間を中断されたブランタークさんが愚痴っているが、それは無視してテスタロッサ家の領主館を目指す。
 俺はフェイト義姉さんを里帰りさせるため何度も来ていたが、領内は緊張感に包まれていた。
 途中で名主の家を通ったが、多くの男性が集まって倉庫から槍や防具を取り出して手入れをしたり、試着していた。
 傍に女性たちもいて、サイズが合わない防具の直しを急ぎ行っている。

「テスタロッサ家では、領民が装備する装備は一括管理なのですか」

「昔からそうよ。ファブレ騎士爵家は、その家ごとの管理よね」

 諸侯軍に徴集される領民たちが装備する武器や防具は、領主家が一括管理するところと領民の家ごとに管理するところがあるというだけの話だ。

 どちらが正しいということもないので、それは各貴族家が決めること。
 ただ一つだけ言えるのは、テスタロッサ家諸侯軍の装備品は統一されていた。
 全額ではないが、装備代をテスタロッサ家が負担している証拠だ。
 領内の各地区にある倉庫で一括管理しているのも自分たちも金を出したからというのもあるが、武器と防具は定期的に手入れをしなければすぐ駄目になってしまうし、使える期間が短くなってしまうからだ。
 ファブレ騎士爵家は余裕がないので、お前らが自分で揃えて手入れも任せたといって放置しているから、装備品がバラバラなのだと思う。

 紛争になった時、敵味方の判別が難しくなるから装備品が統一されていないのはよくないんだが、ファブレ騎士爵家相手に紛争をする相手がいなかったから、これまで特に問題になっていなかった。そもそもあの大山脈を越えて紛争を仕掛ける近隣貴族なんて存在しないのだ。

 それに貴族同士の紛争など、そう滅多にあるものではない。

「この人たち、戦わせて大丈夫なのかな?」

「紛争なんて父も経験したことがないと思うけど、それはブレンメ男爵家もお互い様だから」

 普段は各名主が管理する倉庫に仕舞ってある武器と防具を装着する機会など、そうはないのが現状で、これから紛争に向かうといよりは消防団の訓練にように見えてしまう。
 やる気のある貴族なら定期的に領民たちに訓練を施すところもあるけど、そんな貴族は滅多にいない。
 諸侯軍への訓練も労働力を提供する一種の賦役であり、訓練する分、農作業や狩猟、採集、普段の仕事を阻害するので、その分生産量が落ちてしまう。

 まともな貴族ならその分は税から控除するし、訓練中の食事代などを負担するが常識だ。
 万が一に備えて領民たちに訓練を施すというのも貴族にとっては思った以上に大きな負担だったりした。
 ちなみにファブレ辺境伯家やバウマイスター辺境伯家は、例外中の例外である。

「ブレンメ男爵家側の動きは、テスタロッサ家側にも漏れているようだな」

 愛娘との時間を潰されてご機嫌斜めだったブランタークさんだが、すでに仕事モードに戻っていた。

「ブライヒレーダー辺境伯家のみならず、テスタロッサ家にも密告があったそうです」

 そんな話をしながら屋敷に到着すると、そこでもテスタロッサ家の家臣やその家族たちが紛争の準備で忙しそうに働いていた。

「これは、ファブレ辺境伯殿」

 フェイト義姉さんの父テスタロッサ卿が、俺たちに挨拶をしてきた。

「申し訳ありませんが、今日の俺はフリーの魔法使いという扱いですから」

「そうでしたな」

 トオルが継承するテスタロッサ家はファブレ辺境伯家の寄子になるが、こちらのテスタロッサ家はブライヒレーダー辺境伯の寄子のため、そこにファブレ辺境伯である俺が紛争の応援に行くと色々と面倒なことになってしまう。

 そこで今日の俺は、テスタロッサ家に雇われたフリーの魔法使いルークという設定であった。
 あくまでも、ブライヒレーダー辺境伯家からの応援はブランタークさんというわけだ。

「応援に感謝いたします。ブランターク殿、ブライヒレーダー辺境伯殿によろしくお伝えください」

「お気になさらずに。今回は急な話だったので、私のみで心苦しい限りですけど」

 ブライヒレーダー辺境伯家でも魔導飛行船の手配が間に合わず、ブランタークさんだけを送り出すことになったのだが、ブレンメ男爵家側には魔法使いがいないから、数百の兵よりも魔法使い一人の方がありがたいはず。

「援軍を間に合わせることも可能でしたが、受け入れ側の負担もありますからね」

「はい、うちは小さいですから」

 援軍を受け入れてもいいのだが、急ぎなので持参できる食料や物資は限られる。
 テスタロッサ家側としても援軍を受け入れても面倒を見きれないのだ。
 紛争になれば男手は紛争にかかりきりになるから、畑は女性、子供、老人に任せるにしても狩猟はできなくなってしまう。
 食料が不足しやすいところにブライヒレーダー辺境伯家からの援軍受け入れは厳しいであろう。
 全部とは言わないが、貴族のプライドとして援軍が消費する食料などもある程度は負担しなければいけないのだから。

「ブレンメ男爵家の嫡男ってのは迷惑な奴だな」

「本当にそうだな」

 リッドの意見に、全員が賛同した。

「基本的に綺麗事しか言わない口先だけの男ですが、なにも失う物がないのでこういう無茶も平気で行えるようです。とにかく防戦の準備を急ぎませんと」

 領民全員で侵攻するとか、完全に頭がおかしいとしか思えん。
 テスタロッサ卿も内心では頭を抱えているはずだ。

「お隣は選べませんからね」

「そうなのよ。先代もバカだけど、なにもしてこないだけマシだったのよ」

 フェイト義姉さんからも散々な評価をされるブレンメ男爵親子であったが、確かにどんな在地貴族でもお隣さんは選べないからなぁ。
 話はこれくらいにして、今は俺たちも準備を整えることにしよう。



「って、急ぎ準備したけど、ブレンメ男爵家の連中こないな」

 諸侯軍の準備を終えたテスタロッサ卿とともにブレンメ男爵領との領地境に陣を張ったが、肝心のブレンメ男爵家の嫡男イーヴォとその愉快な軍勢はこなかった。

 ほぼ全領民で侵攻するという作戦、かなり破れかぶれだが意味がないわけでもない。
 常識外れも極めれば、もしかしたら上手く行くかもしれないからだ。
 ところが、こういう常識外れな作戦を成功させるにはある条件がある。
 それは、相手よりも素早く動くこと。
 それなのに、いまだブレンメ男爵家諸侯軍の姿は見えなかった。
 せめて、こちらが陣を張ろうとしたところを奇襲するとかしないと勝てないのに……。

「これは、一族にまで内通者がいたおかげですね。明日には姿を見せると思います」

 いつの間にか見慣れない初老の男性がいた。
 身形は少し貧相であったが、とても知的な人に見える。

「ルーク殿、彼はブレンメ男爵家の執事のゾンバルトです」

「これはどうも。ルークです」

 ファブレ辺境伯とは名乗らない。
 今の俺は、フリーの魔法使いルークなのだ。

「執事ですか?」

「ブレンメ男爵家も次々と家臣が去っていき、内々のことの大部分を任されております」

 実質、家宰みたいなものか。
 そんな人が裏切るって、ブレンメ男爵家は完全に終わっているな。

「あれ? でも一族の人じゃないですよね?」

「詳細な情報を私に集めさせ、自らも集め、文に認めて外部に送った方は別にいます。その人物がこちらに来るわけにはいかないため、私がここに来たわけです」

 軽く言ってくれるが、この時点で彼は裏切り者だと公にしたようなものだ。
 紛争終了後、間違いなくブレンメ男爵家にはいられなくなるであろう。

「その唯一まともなご一族の方を裏切り者にするわけにはいきませんので。私の家は代々ブレンメ男爵家に仕え、悲惨な状況をなんとかしようと足掻いて参りましたが、もはや限界だと思いました。あとは、そのご一族の方が平穏に暮らせるよう動くのみです」

 代々バカ揃いのブレンメ男爵家の面々であったが、一人だけまともな人物がいる。
 ゾンバルトは、その人物のために動いているようだ。

「本当なら、テスタロッサ領は数だけは多い敵に奇襲を受けるところだった。これは、ゾンバルト殿の功績ですかね?」

「いえ、いくら他所の領地とはいえ、全領民が出兵の準備をしていたら気がつかれますよ。よほどうまく隠蔽しない限りは。それに……」

 ゾンバルトが視線を向けた先には、テスタロッサ領と領地を接している貴族領からの援軍があった。
 人数は多くても二〜三十人ほどだが、数家混合で合計は百名を超えている。
 テスタロッサ家からすればありがたい援軍であろう。

「ブレンメ男爵領と領地を接している貴族で出兵準備に気がついた者もいますし、さすがに今回の出兵につき合いきれないと感じた領民もいるようです。他領に逃げ込んで、今回の侵攻が発覚したようですな」

 奇襲なのに情報が洩れているのか。
 本当、ブレンメ男爵家の嫡男は駄目な男だな。

「人前で話すのは上手な方なのです。父親が口下手な分、雄弁に語る嫡男に家臣も領民も最初は期待しました」

 いるよなぁ、そういう人って。
 言うことは立派なんだけど、まったく行動がついて行かない。
 イーヴォとかいう嫡男もそういう人なんだろう。

「情報が駄々漏れでも、明日になれば千人からなる人間が突撃してくるかもしれないんだ。なんとか犠牲を出さないようにしないと」

「ご立派ですな。さすがは、ファブレ辺境伯様」

「今の俺は、フリーの魔法使いルークだ。別に俺は立派じゃないさ」

 女子供まで混じった軍勢に本気で魔法なんてかけられるか。
 こちらに突撃してくる前に大規模魔法を見せつけて脅すか、または『魔力吸着陣』で全員、無効にするか。

「・・・よし・・・・全員、動けなくしよう」

「どうするんだ」

 俺は、魔法の袋から杖と本と魔晶石を取り出した。

「それは・・?」

「魔法陣を形成するための本だ」

 魔晶石を繋げ本のページをめくり、杖と魔力吸着陣のページに魔力を通すと杖の先端から魔力の光が漏れ、ブレンメ男爵領からテスタロッサ領に通じる道の上空に魔法陣が浮かび上がり、魔法陣が地面を照射し、魔力吸着陣が地面に刻み込まれた。

「リッド・・・目印、頼むな」

「ああ」

 リッドが魔法陣の外に目印たる木の枝を立てた。
 それが終わると魔力を通すのをやめると上空に浮かんだ魔力吸着陣が消え、最後に地面に刻まれた魔力吸着陣も消えたのだ。

「ファブレ辺境伯様・・・今のは」

「人間には魔力を微量でありますが保有しています。その魔力に反応して地面に吸着するようになっています、吸着すると動けません。魔法使いがいれば魔法障壁を張れますが、この吸着陣は攻撃力がないので魔法障壁でも防ぐことが出来ません」

「領民達のためにありがとうございます」

 明日に備えて寝る場所を確保しないと。

「今日は野宿だな」

 この辺、畑と草原しかないからな。
 夜襲がないと断言はできないから、テスタロッサ家の屋敷に戻って寝るわけにもいかず、冒険者をしている時と同じくテントを張ってそこで寝ることにした。

 いつものことで慣れているから、リッドも文句を言わない。

「いつものことだ」

 二人でテントから顔を出して星空を見ると多くの星が瞬いていた。
 地球の都市のように過剰な灯りがないため、多くの星がとても綺麗に見える。
 残念ながら、どれがどの星座かはわからないが。
 この世界でも星座は存在するのだが、如何せん興味がなかったので知らなかったのだ。

「ねえ、ルーク君。私、本当に屋敷に戻っていいのかしら?」

 とここで、フェイト義姉さんが声をかけてきた。
 俺の世話をするため、今日は一緒に野宿しなくていいのかと尋ねたのだ。

「戦闘になるかもしれないので」

 フェイト義姉さんには、戦闘力が皆無に近いからな。
 屋敷に戻った方がいい。

「それもあるけど、フェイトさんが戻った方がみんな諦めるから」

「そうよねぇ……こんな時になにを考えているのかしら?」

 フェイト義姉さんが呆れた理由。
 それは、テスタロッサ家への援軍の中になぜか世話役として数名のご令嬢が参加していたのだ。
 しかも、家臣や兵たちの世話役ではなく、俺の世話役だというのだ。
 こんな時に、しかも、今の俺はフリーの魔法使いという扱いじゃなかったのかと。
 そう文句を言うと『どの軍勢にも魔法使いなんていないので、お世話しても問題ない』と言いやがった。
 もしその間に令嬢たちと俺が恋仲になっても構わない。
 むしろ、なってほしいという意図がミエミエであった。

「というわけでさ、これから戦闘になるかもしれないから援軍を出した貴族の令嬢たちは邪魔だから屋敷に連れ帰ってくれないかな?」

「そうよねぇ……」

 戦場になるかもしれないところに貴族の令嬢なんて邪魔なだけである。

「わかったわ」

「ちょうど屋敷に伝令で戻る兵が灯りを持っているの。一緒についていくわ」

「それがいいですね。フェイト義姉さん、気をつけて」

「ありがとう。じゃあ、二人とも気をつけて」

 フェイト義姉さんは、俺狙いの貴族令嬢たちを連れて屋敷に戻っていった。

「明日はどうなるかな?」

「まあ、なるようにしかならないさ」

「それもそうだな」

 今はこんな状態なので、俺たちは明日に備えて寝るしかない。



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