様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「ルーク君、うちの実家までお世話になって本当にありがとう」

「そんな大したこともしていないので」

 フェイト義姉さんが俺にお礼を言ったのは、彼女の実家であるテスタロッサ騎士爵領に魔導飛行船の発着場ができ、そこに1日1便、船便がくるようになったからだ。

 発着場は中小型の船しか離発着できない広さだが、テスタロッサ騎士爵領とその周辺の領地ではそれで十分であった。

「父がとても喜んでいたわ。生活が便利になったって」

「そこは、ブライヒレーダー辺境伯の依頼ですので気にしないでください」

 俺は、ファブラブルク〜テスタロッサ騎士爵〜ブライヒブルクにと空路を変更しただけである。魔導飛行船の発着場も魔法を使って平らにした後、ファブレ辺境伯領の大工長が陣頭指揮を取りテスタロッサ騎士爵の領民達が魔導飛行船が降り立てる発着場を16日かけて作っただけである。領民達の雇用費用は、俺が時給50セントほど出し、テスタロッサ騎士爵が10セントほど出し、材料費はブライヒレーダー辺境伯が出したのだ。その代わり『新セメント』をブライヒレーダー辺境伯に販売してくれるようにお願いされたので了承したのである。テスタロッサ騎士爵にそんな金あるのかという人がいるのだが、領内での経済循環が生まれ、さらにファブラブルクとブライヒブルクの間に流通路が生まれたので問題なかったのだ。

「お隣のブレンメ男爵家は怒っているみたいよ」

「どうしてです?」

 人と物の流れが活発になれば、ブレンメ男爵領にも利益があるはずなのに。

 何が不満なんだろう?

「なぜ我が領地に魔導飛行船の発着場を作らないのかだって」

「知りません」

「そうよね」

 そんな、碌に知らない領地に行って発着場なんて作るはずがない。
 魔導飛行船の乗組員たちだって、そんなよくわからない領地に船を下ろしたくないはずだ。

 テスタロッサ騎士爵家は先に寄親であるブライヒレーダー辺境伯に陳情を行い、彼がファブレ辺境伯家の遠戚だから優先してやってほしいと頼んだだけだ。

 フェイト義姉さんが俺に強く頼んだわけではないし、他にも数ヵ所、ヴェルが魔導飛行船の発着場は建設している。

「ブレンメ男爵家って初めて聞くけど、どんな貴族なんですか?」

「あまりどころか、評判は最悪ね」

 フェイト義姉さんは、自分が知る限りブレンメ男爵家のことを教えてくれた。
 五代前から無能な当主が続いて家は借金だらけ、それを返すために領民に重税を強いたため、逃散が続いて領内は荒廃している。
 男爵家なのに、その力は騎士爵家であるテスタロッサ家とそれほど差がないそうだ。

「ファブレ辺境伯領に移住した人も多いの。あまり大きな声では言えないのだけど……」

 逃散した領民というのは、基本的には元の領主に返還しなければいけない。
 というのは建前で、現実は領地の広さに比して人口が増えすぎたとかで、結構人の移動は頻繁だったりするのだが。
 ブレンメ男爵家の場合、領地の広さには余裕があったが、苛政が原因で領民が逃散してしまった。
 可哀想だと思って保護したテスタロッサ家としては、彼らは元ブレンメ男爵領の領民ですと公的に言えないわけだ。

「下手に刺激すると、もうかなり危ないって噂だから暴発の危険もあるのよ」

「それでよく潰れないよなぁ……」

「潰したくないんじゃないの? 潰したところに債権者が押し寄せるから」

「債権者ね・・・潰した王家に請求なんて出来るものなのか……」

 普通は、無理である。

「主家だからじゃないかしら」

 そういえば、王家は主家だな。

「返済不能なら公爵家みたいに潰して問題なさそうだけど、どうなんだろう」

 もうあとがない奴は、ある意味最強だな。

「それにそんな領地に発着場なんて作れませんよ」

 貴族の領地ってのは、その貴族が運営する国家と同じなのだ。
 借金返済のため到着した船に高額の発着場使用料を取るとか、降ろした人や荷物に多額の税金をかけられたら、本来の目的である交通と流通の促進が達成されなくなってしまうからだ。

 その点、ブライヒレーダー辺境伯は抜かりがない。

 発着場を作った貴族家に対し、必要以上の発着場使用料や関税の類を取らないよう、ちゃんと文章に残してあった。
 テスタロッサ家も、それにちゃんと従っている。

「ブライヒレーダー辺境伯は、ブレンメ男爵家に声をかけなかったのですか?」

「父が言うには、どうせ契約を守るはずないから、ブライヒレーダー辺境伯様も声をかけなかったのだろうと」

「どれだけ信用がないんですか……」

 というか、そんな貴族がよく生き残っているよな。

「ブレンメ男爵家領は『嘆きの牢獄』みたいものか……」

 王国もブライヒレーダー辺境伯家も、このまま徐々に衰退して自然消滅するのを待っているわけだ。

「関わらない方がいいんですね」

「そういうこと。私が実家にいる時も時おり着の身着のままで領民が逃げてきて、うちや近くの貴族領に移住させていたもの」

「酷い貴族だなぁ……」

「昔は苦情を入れていたって聞いたけど、話が通じないからやめたみたい。今の当主も大概だけど、跡取りも酷いみたいね」

 実は、ブレンメ男爵家って呪われているのだろうか?

 代々無能な当主が続くなんて……。
 などと思っていたら、突然、遠見通信球が鳴った。
 誰からかなと通信に出るとブライヒレーダー辺境伯からであった。

『本日はお休みでしたか?』

「ええ……」

『申し訳ないですけど、ちょっと緊急事態でして……』

 ブライヒレーダー辺境伯の声が深刻なので話を聞くと今、フェイト義姉さんと話をしていた大借金駄目貴族ブレンメ男爵家についてであった。 

『実は、うちの寄子であるブレンメ男爵家が、隣接するテスタロッサ家に対し紛争を仕掛けようとしているそうです』

「発着場の件ですか?」

『おや、よくわかりますね……ああ、そちらにテスタロッサ家の方がいましたね』

「ええ」

 ブライヒレーダー辺境伯は、フェイト義姉さんのことをちゃんと覚えていたようだ。

『実はとある筋から情報を得まして、ブレンメ男爵家の嫡男が発着場を含むテスタロッサ領全体の占領を目論んでいます』

「それって、紛争ってレベルじゃないですよね?」

 それは、戦争というのだと思う。
 テスタロッサ家の人たちだって、そのまま素直に領地や財産、発着場を明け渡さないだろう。
 双方に多くの犠牲者が出る可能性が高い。

『急ぎ屋敷に来ていただけませんか? 詳しい話はそこでします』

「わかりました」

 ブレンメ男爵家、テスタロッサ騎士爵家ともにブライヒレーダー辺境伯家の寄子なので任せてしまってもいい気がするが、俺は辺境伯になったし、テスタロッサ騎士爵家が分割してうちの寄子になるからまったく無関係というわけでもない。

「私も心配なので連れて行ってください」

「わかりました」

「ルーク、単独は駄目だぜ」

 フェイト義姉さんが心配そうな顔をしているので彼女も連れ、俺は急ぎ『瞬間移動』でブライヒブルクへと飛んだ。

「魔法があると早くていいですね。ところで、ミュウは元気ですか?」

「子供が出来たので、毎日楽しそうですよ」

 俺と顔を合わせるなり、ブライヒレーダー辺境伯は遠縁のミュウについて聞いてきた。

「やはり紛争は避けられないみたいです」

「ブライヒレーダー辺境伯様。情報源は正しいのですか?」

 リッドは、その情報は真実なのかとブライヒレーダー辺境伯に問い質した。
 間違っている情報だと、こちらが墓穴を掘りかねない。

「疑念はごもっとも。精度の高い情報ですよ」

「それゆえ、情報源は秘密ってわけだ」

「ここにいるメンバーになら話しても問題はないですね。これは、ブレンメ男爵家の暴走に危機感を抱いた重臣と一族の者による内部告発ですから」

 というとブライヒレーダー辺境伯は手紙を俺たちに見せてくれた。
 なるほど、内情を告発した密書というわけだ。
 密書の宛名を見るとゾンバルトとイヴァンカと書かれていた。

「どういう人なのです?」

「ゾンバルトは代々ブレンメ男爵家に仕える執事……ブレンメ男爵家は家臣団の崩壊も進んでいるので、彼が家宰みたいなものです。金庫番も兼ねた大物ですよ。イヴァンカは、現当主の長女です」

 当主が無能で、家宰と娘はまともなのか。
 そしてフェイト義姉さんによると嫡男も残念な人だったな。

「手紙によると紛争を仕掛ける主犯は嫡男のイーヴォです。当主は嫡男の失敗を願っているようですね。元々当主は、家臣団をリストラで崩壊させた戦犯なので、家臣たちからの支持が薄い。嫡男の暴走を止められないどころか、失敗したら処分するつもりのようです」

「それで、イヴァンカさんに婿を迎えて家を残すというわけですね。あの家なら、やりかねませんね……」

 フェイト義姉さんが呆れた表情を浮かべた。
 お家騒動も結構だが、やるなら他家を巻き込むなって話だ。
 そりゃあ、誰からも相手にされないわ。

「しかし、領民の逃散と大借金で騎士爵家並の力しか持たないブレンメ男爵家がどうやって紛争に勝つのです?」

 動員できる兵力にそう差がない以上、テスタロッサ騎士爵家に対し完全勝利するなんて難しいと思う。
 ましてや、在地貴族が持つ諸侯軍なんて大半が普段は農民なんだから。

「それも手紙に書いてありますけど、領民を総動員する計画です」

「はあ? 領民を全員ですか?」

 俺は思わず、ブライヒレーダー辺境伯に聞き直してしまった。

「ですから、女性もお年寄りも子供も、みんな動員してしまうのです。武器はその辺の棒でも農具でも持たせればいいと」

 確かにその手なら、兵数だけは増やせる。
 女性や子供は戦力にならないし、紛争の最中に誰が農業や狩猟をして食料を得るのかという疑問は浮かんでくるが。
 領民を根こそぎ動員するなんて、どう考えても狂気の沙汰以外なにものでもなかった。

「頭がおかしいんだな。その嫡男」

「前から評判は悪かったですけどね」

 ブライヒレーダー辺境伯によると嫡男のイーヴォは一見すると聞き分けのいい好青年だそうだ。

「代々当主の失政や悪行を批判し、自分が当主になった暁にはブレンメ男爵領を立て直し、発展させる。それは熱心に語るそうです」

「そういう人、いますよね……」

 本人は真面目で真剣で、極めて善意の人で、自分はこういう風に改革したい、仕事がしたいと熱心に語る。
 ところが、実行力がゼロどころかマイナスに振り切れている人が。

「きっと、言ったことがまったく実行できないで家臣や領民の支持も離れつつあるから、最後の賭けで戦争を仕掛けようとしているってことですよね?」

「大まかに言うとそうですね」

 もう一つ、そういう人ってある意味いい性格をしていることが多い。
 最初に言ったことと、これからしようとすることに大きな齟齬があっても、それに気がつかないのだ。

「領内の改革がまったく進まないから、それを実現するためにテスタロッサ騎士爵家を犠牲にしても仕方がない。紛争で犠牲が出るかもしれないけど、これはブレンメ男爵領を豊かにするためだから仕方がないんだって感じです。自分の都合で善悪の判断がコロコロ変わるのに、それに自分で気がつかないタイプですね」

「最悪だな」

「そうだよな」

「あの、どうして俺を呼んだのですか?」

「ブライヒレーダー辺境伯様が援軍を出さないのか?」

 リッドが、ブライヒレーダー辺境伯家はマンバッハ家に援軍を出さないのかと尋ねた。

「下手に援軍を出すとブレンメ男爵家側が自暴自棄になる危険性を考えているのですよ」

 領民全員が死をも恐れずに突撃してくる?

 そこまで士気が高いものなのか?

 今までの話からすると、そこまで領民たちがブレンメ男爵家を慕っているようには見えないのだが……。

「そっちの忠誠ではないです。みなさん、ちょっと考えてみてください。これだけ苛政が続いて領民が逃げ出し、テスタロッサ家を含む周辺の貴族や、うちですら同情して逃散した領民たちの移住先を確保しているのにですよ。逃げ出さないでまだ残っている人たちです。逆に怖いと思いませんか?」 

「奴隷根性が染みついているのね」

「それですよ、フェイトさん」

 従順というか、苛政で苦しんでいても、裏で文句は言っているかもしれないが表立っては領主への忠誠を貫く。
 悲惨な待遇に慣れてしまったというか。 
 確かに、彼らがイーヴォの命令を最後まで順守する可能性があるんだよな。
 もしそうなれば、かなりの死者が出てしまうかもしれない。

「あの状況で残っているからこそ、逆に怖いんですよ。刺激したくない」

「ということは、俺がいち魔法使いとしてテスタロッサ家に陣借りをすればいいと?」

「報酬は出しますので。高いのは知っていますが、千人規模の援軍を出すよりも安いですし」

 ブライヒレーダー辺境伯は、寄親としてテスタロッサ家を守らなければいけない。
 もし正式に諸侯軍を援軍として出すと費用はとんでもないことになる。
 それなら、俺に高額の報酬を支払った方が安くつくというわけか。

「リッドさんにも報酬は出します。それでも、軍勢を出すよりは安いのです」

「どうする?」

「引き受けますよ。フェイト義姉さんの実家ですので」

「ありがとう、私はお世話役で同行しますね」

 フェイト義姉さんは満面の笑みを浮かべながら喜んでくれた。

「そうですね、フェイトさんはテスタロッサ家との繋ぎ役をお願いします。報酬は出せませんけど……」

「お構いなく。私はあくまでも『陣借りをした冒険者ルーク君のお世話役』なので」

「いやあ、助かりました。うちからは監視役としてまたブランタークを出すので、一緒に連れて行ってください」

 ブライヒレーダー辺境伯家からは、またもブランタークさんが応援に来ることが決まった。

「あれ? そういえばブランタークさんはどこに?」

「彼は今日、お休みなのですよ。悪いですけど、お屋敷まで迎えに行ってくれませんか?」

「わかりました」

 俺たちは、ブランタークさんと合流すべく彼の屋敷に向かうのであった。



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