様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「ええい! なぜ借金が減らんのだ! ゾンバルト! ゾンバルト!」

 今日もバカが騒ぎ出したわ。
 怒鳴っても減るわけがない借金の総額を見て、それを計算した執事のソンバルトを呼び出している。
 彼に怒鳴っても意味がないのに。
 そもそも、彼ほど有能な人物は、このブレンメ男爵家には相応しくない。
 勿論、相応しくないというのは、こんな家に仕えないで他の仕事をした方がよほど豊かな生活を送れるのにという意味。
 私の実家ブレンメ男爵家に代々仕えているからといって、無理に残らなくてもいいのに。
 我が家は代を経るごとに借金が増えていくためゾンバルトの家も代々給金を減らされてきた。
 給金を渡すのが勿体ないと従士長のクビまで切ってゾンバルトに兼任させているのに。
 そんな私の父バルナバス・アウグスト・フォン・ブレンメは、貴族の跡取りに生まれたことだけが取り柄の男であった。
 五代前まで遡って、我が一族は全員がそんな感じ。
 それでも五代前の当主は、領地を豊かにしようと農地の開発や大規模な治水工事を計画し、それを実行しようとした。
 成功していれば、我が祖先は偉大な領主だという評価を得ていたであろう。
 ところが、祖先には事業を成功させる才能がなかった。
 勢いだけで多額の借金までして自ら陣頭に立ち、領民たちを駆使して工事を行って失敗し、そのあとには、中途半端に工事された広大な跡地と莫大な借金だけが残った。
 だが、我が家は潰れなかった。
 商家なら確実に潰れたと思うけど、我が家は貴族だから。

 それも男爵家。

 末端ながらも王家から代々の継承が認められている本物の貴族。

 えっ?

 準男爵家と騎士爵家はって?

 本当は一代限りという古臭いルールはあるけど、王家も膨大な数の準男爵家と騎士爵家をわざわざ任命しなおす余裕なんてない。
 せっかく未開地を開発して騎士爵になったのに自分が死んだら他人が領主なるなんてことになったら、誰も新しい領地を開発なんてしなくなる。
 そんな事情で、準男爵家と騎士爵家も子供への継承が認められていた。
 そんな事情もあってか、男爵である父は準男爵家と騎士爵家を見下している。
 うちなんて名ばかり男爵家で借金だらけなのに、まったく現実が見えていないのだ。
 男爵としては、間違いなく王国でも最下位に近い父が唯一自慢できるのが、自分は本物の貴族だということだけというわけ。
 ちっぽけなプライドよね。
 そんなもので借金は減らないのに。

「お館様、いかがなさいましたか?」

「この借金はなんだ! 増えているではないか!」

「利息の支払いが追いつかないのです」

 もう一つ問題がある。

 いや、二つか。

 それは、開発事業を失敗させた五代前の子供から、うちの父まで。
 借金があるのに無駄な浪費を重ねて余計に借金を増やしていたのだ。
 四代前は、とんでもない博打狂いだった。
 ブライヒブルクから魔導飛行船で王都まで遊びに行き、カジノでさらに借金を増やした。
 本人は『ギャンブルで借金を返す』と本気で思っていたそうだ。
 親子して無能な働き者とも言える。
 三代前は、異常なまでの女好き。
 それも、うちの領地にいるような田舎臭い女は苦手だったそうだ。
 ブライヒブルクから魔導飛行船で王都に向かい、そこで綺麗な女性がお酌をしてくれるお店で女性を口説いた。
 そのお店は大貴族や大商会の当主がお酒を飲みにくるようなお店だから、またも借金を増やした。
 身の程知らずもいいところよ。
 領地に連れ帰った女たちに贅沢な暮らしをさせ、借金はまた増える。
 それでも潰れなかったのは、金を借りている大商会の娘を正妻にして援助を受けたから。
 当時から借金だらけだったうちに嫁に来る貴族の娘もいないけど、男爵の正妻が貴族でないなんて恥ずかしいので、親族である分家に養女に出したことにしてから娶ったそうだ。
 ただ、その方法は、うちの領地でのみ通用する方法で他の貴族達にうわさをされて恥をかいたみたい。
 私に言わせると借金まみれの方が恥ずかしいと思う。
 挙句に沢山いる愛妾が生んだ子供が多すぎ、後腐れなく領地を出て行ってもらうため、また借金が増えた。

 二代前、私の曽祖父は美術品収集が趣味だった。
 お金がないので、父親と同じ手を使って商人の娘を正妻にした。
 こんな家に嫁を出してなんの得があるのかわからないけど、うちは娘を貴族の嫁に出したというと箔がつくらしい。
 商人の世界はよくわからないけど、腐っても男爵家というのはわかった。

 先代、私の祖父は酒飲みだった。
 貧乏なので、自分でこっそりと酒を作っていたけど、酒に酔っている間は貴族としての仕事を一切しなかった。
 隠居したゾンバルトの父親に丸投げだったのだ。
 そのせいか知らないが、祖父は早死にした。
 酔って川に落ちて溺れるという貴族としては最悪の死に方だ。
 当然、外聞が悪いので、病死したことにしたけど。
 祖父の葬儀では、領外の人はブライヒレーダー辺境伯家の名代しかこなかった。
 寄親としての義務だからであろう。
 跡を継ぎ喪主であった父は、ブライヒレーダー辺境伯家からの香典の額に心を躍らせていたそうだ。
 こんな人間でも、生まれが貴族なら貴族なのか。

 当代である父を一言で言うと『小物』だ。
 博打、酒、女狂いなどの瑕疵はないが、自ら領民のために働くなんて殊勝な考えは持っていない。
 ただ莫大な借金をいかに減らすか。
 ここで父は、今までどの当主もしなかった最悪の手に出た。
 領民への税を上げ、家臣の給金を下げてリストラを行う。
 そこまでしたにも関わらず、我が家の借金は増えるばかりだ。
 正妻……私の母も持参金目当ての商人の娘だというのに……。

「嘘をつけ! イーヴォであろう? あいつに金を出すな!」

 そして、次の当主となる私の兄イーヴォ。
 我が兄ながら、なぜブレンメ男爵家の当主は代々無能なのだと思ってしまう。
 兄は、いわゆる口先だけ男である。
 この状況を逆転するため父のように予算を削るだけでは駄目だと五代前と同じく領内の開発を目論んだ。
 ところが、兄は基本口先だけの男だし、苦労知らずのボンボンなので簡単に騙されてしまう。

「今回はなにに使ったのだ?」

「温泉の試掘だそうで……」

 ゾンバルトがしどろもどろで説明をした。
 なんでも、兄が知り合った山師から『温泉が出れば、観光客も来て儲かる』と言われたそうだ。
 その話に乗った兄が山師に金を払って採掘を頼み、その費用でまた借金が増えた。

「それで、温泉とやらは見つかったのか?」

「一応ですが……」

 ひと口に温泉といっても、泉質と温度の関係で人が入れる保証はない。
 うちの領地から湧きだした温泉は、強酸性で人間が入れば肌が爛れるものであった。

「そんな温泉、使い物になるか!」

 それどころか噴き出した温泉が川に流れ込まないよう領民たちがため池を作っている最中だ。
 領民たちがそんなことしても一セントの得にもならないが、もし水源である川に流れ込めば生活用水と農業用水が確保できなくなる。
 無料働きどころか人手の分損をしているので、実質増税されたに等しかった。

「その山師はどこに行った?」

「姿を消しました」

 山師は、試掘の報酬だけ貰ってとっとと逃げ出したようだ。
 山師からすれば、一見言うことは立派でも、世間知らずで人を疑わない兄が鴨に見えたのであろう。

「ゾンバルト! お前がいながら!」

 父は、金庫番のゾンバルトが兄にお金を渡してしまった件を責めているが、こればかりは父にも責任がある。
 父は膨大な借金を減らすため家臣と領民たちに負担を強いた。
 そのため、一見口は上手い兄に同調し、父を無視する家臣が増えてしまったのだ。
 ここでゾンバルトがお金を渡さないと最悪彼がブレンメ男爵領から追放されてしまう。
 それを防げない時点で、我が家は最低だ。
 本来、当主権限が強いはずの貴族が、嫡男とそのシンパと対立しているのだから。
 経費を削り増税することしかできない父と改革だの前進だのとお題目は掲げるが、実行力がゼロで借金を増やすしか能がない兄。
 双方の対立もあって、ブレンメ男爵領はボロボロであった。

「イーヴォの奴め!」

 父は怒るが、ここで兄を押し込めると言う選択肢はない。
 なぜなら、父の方が減給で家臣の恨みを買っているため、彼らが率先して父を押し込めて兄を当主に打ち立てる可能性が高いからだ。
 押し込めで済めば御の字か。
 最悪、父は病死に見せかけて殺されかねない。

「イーヴォめ! 男爵であり父親であるワシに対する敬意の欠片もない!」

 兄も口だけの男だが、父も決して人様から褒められるような貴族でもないのに。

 どうして自分が子供から尊敬されるなんて思えるのであろうか?

「イヴァンカ、我が家のためにお前の嫁ぎ先は慎重に決めねばなるまい! 最悪、有能な婿を迎えてイーヴォは廃嫡だ!」

 なるほど、跡取りを立場の弱い娘婿にして、自分の権威を回復させる作戦なのか。
 問題なのは、今のブレンメ男爵家に有能な婿が来るかどうかね。
 こんな借金だらけの領地、好き好んで継ぐ人はいないと思うけど……。

「お嬢様、大変でしたな」

「ゾンバルトこそ。もうこの家を見限ったら? 将来なんて欠片もないわよ」

 口うるさい父の下を辞した私は、一緒に部屋を出たゾンバルトに声をかけた。
 あんな人の相手なんてしても意味がないのだから、とっとと転職すればいいのにと。
 そうね、今話題のバウマイスター辺境伯家とかファブレ辺境伯家とか。
 あそこは生え抜きの家臣が少ないから、ゾンバルトなら出世できると思う。

「そう思わなくもないのですが、ここは故郷ですから」

「酷い故郷じゃない」

 代々当主が無能のため、ブレンメ男爵領は非常に貧しかった。
 領民の逃散も定期的にある。
 初めは厳しく取り締まっていたらしいけど、手を変え品を変え重税に喘いだ領民たちは逃げてしまう。
 ブレンメ男爵領は、エチャゴ平原にある小領主混合地域の中の一つだ。
 寄親であるブライヒレーダー辺境伯家と比べるのはおこがましいが、小領主混合地域の中では大身の部類に入る。
 内情は御察しのとおりだけどね。
 うち以外ならどこに逃げてもマシな生活が送れるから、今のブレンメ男爵領は下手な騎士爵領よりも力はないかも。
 領地は広いけど、領民が少ないから意味がないのよね。

「いくら酷い故郷でも……それに私がいなければ抑えられません」

「本当にそんな計画があるの? 兄は悪人ではないと思っていたけど……」

「悪人ではありませんが、考えがコロコロ変わって、本人がそれを正しいと本気で思えるのです」

「そういうのって、行き当たりばったりって言うのよね。兄らしいけど。紛争か……」

 山師に騙されてさらに借金が増えた兄は、領民のために紛争を仕掛けようとしていた。
 その意見に大半の家臣たちが同調している。
 紛争を仕掛けるのは、隣に領地があるテスタロッサ騎士爵領みたい。
 あくまでも、ゾンバルトが教えてくれた計画だから本当かどうか確認できないけど。

「あそこなら、一応紛争を仕掛ける大義名分はあるのか……」

「向こうからしたら大激怒でしょうけど」

 苦しい生活を送っていた領民たちの大半は、マインバッハ騎士爵領やテスタロッサ騎士爵領に逃げ込んだ。
 あそこ自体はこれ以上領民を増やす余裕がないのだけど、親戚にバウマイスター辺境伯家やファブレ辺境伯家があるのは心強かった。
 人手が足りないバウマイスター辺境伯領やファブレ辺境伯家に送り出し、マインバッハ卿やファブレ卿の孫を当主とした分家が南にできるので、そこの領民としても受け入れられている。

 どうして、たかが騎士爵家がそこまで景気がいいのかというとバウマイスター辺境伯やファブレ辺境伯の亡くなった兄がマインバッハ騎士爵家やファブレ騎士爵家から妻を迎えていたからだ。

 その兄は、うちの一族みたいに残念なことをして、その罪を己の命で償った。
 残された妻は、その罪滅ぼしでバウマイスター辺境伯の愛妾をしていると聞く。
 表向きはメイド長という話だけど、本当にメイド長だけをしているなんて信じている人はいない。
 バウマイスター辺境伯より大分年上だと聞くけど、お気に入りの愛妾で奥さんたちとも仲がいいと聞くわ。

「私は女性だからわからないんだけど、バウマイスター辺境伯って年上が好きなの?」

「必ずしもそうとは言い切れないかと女性の好みを年齢で区切っていないのでは? あとは……」

「あとは?」

「私は男なのでそう思うのですが、マインバッハ家のご令嬢は、バウマイスター辺境伯の義姉にあたります。子供の頃に見染めた年上の義姉とそういう関係に……というシチュエーションが好きな男性もいるものと……」

「私くらいの娘が、父くらいの年齢でダンディーな殿方を好きになるのと似たような感じかしら?」

「お嬢様がもっと幼い頃に恋心を抱けば、そうかと思います」

 なるほど、ゾンバルトの説明はわかりやすいわね。
 それにしてもマインバッハやテスタロッサの娘は……もう娘って年齢じゃないけどね……上手くやったわね。
 才能ある弟を殺そうとした夫の子を別家の当主にしてしまうのだから。

「その人は、美人なのかしら?」

「そういう噂はありませんでした」

「そうなの。義姉補正って強いのね」

 たまに教会が取り締まっている不良図書の内容みたい。

「他にも、義妹、義母、若き叔母とか、幼馴染とか。その手の本では人気のジャンルですね。定番とも言えます」

「詳しいわね」

「まあ、こんな生活なので数少ない趣味です」

 そうなんだ。
 凄いことを聞いてしまったわ。
 でも、そんな本でも読んで気を紛らわせないと、うちで執事なんてやっていられないか。

「話がそれましたね。そんなわけでして、マインバッハ家やテスタロッサ家は逃げてきた領民たちを全員バウマイスター辺境伯領やファブレ辺境伯領に送ってしまいました」

 本当なら、マインバッハ家やファブレ家は保護した領民をブレンメ男爵家に送り返すのが常識だ。
 それをしないでバウマイスター辺境伯領やファブレ辺境伯領に送ってしまった時点で、紛争を仕掛けられても文句は言えない。
 うちがあまりに苛政を敷いたため領民たちが死んでも戻りたくないと言った可能性は高い。
 マインバッハ卿やテスタロッサ卿は、同情して領民たちをバウマイスター辺境伯領やファブレ辺境伯領に送ったのかも。
 その方がお互いに幸せになれるしね。
 実は、そのお互いのどちらにもブレンメ男爵家は入っていないけど。

「紛争を起こすのはいいとして、勝てるの?」

 相手は騎士爵家なのに今では動員能力にほとんど差がない状態だ。
 というか、うちはどれだけ領民が逃げたのよって話よね。

「無理でしょうな」

「そうなの?」

 動員できる兵員は同じなのだから、やり様があると思う私は甘い?

「紛争ですから、領地境で睨み合うのが精々でしょう。紛争の華である一騎打ちですが、うちは家臣が減ったので……」

 武芸に長けた家臣は、みんなバウマイスター辺境伯領やファブレ辺境伯領に再就職してしまった。
 クビになった彼らがすぐに仕官できる貴族家なんて、あそこしかないから当たり前だけど。
 父も兄もそれを聞いて『裏切り者!』って怒っていたけど、クビにしたうちが言っていい言葉じゃないと思うわ。
 それならクビにしなければいいのだし。

「テスタロッサ家なら、陣狩り者も集まりますからね」

「うちは駄目なの?」

 陣狩り者って、食事と手柄を立てた時の褒美と感状だけで……うちに褒美なんて出す余裕はないわね……。
 仕官もまずあり得ないか……。

「一騎打ちで負けまくって、テスタロッサ家になにもできず調停で負けるのね。じゃあ、やめればいいのに」

「それが……イーヴォ様が奇襲をかければいいと仰いまして……」

「ねえ……それは本当の戦争を吹っかけるって意味に聞こえるけど……」

 バカなんじゃないの?

 そんなことをしたら、王国政府が黙っていないわよ。
 うちは取り潰されてしまう。

「父はどう思っているの? まさか、兄の計画に気がついていないとか?」

「それはありませんが、放置する方針です」

「はあ? 止めないの?」

「そのつもりはありません」

 とめなければ、御家断絶の危機なのに?

 誰よりも本物の貴族男爵であることに拘っている父が?

 どういうつもりなのかしら?

「お館様は、ブレンメ男爵家が取り潰されないことを確信しているからです」

「ごめん、ゾンバルト。意味がわからない」

「私もブレンメ男爵家が取り潰される可能性はゼロだと思っております」

「どうしてなの?」

「理由は簡単です。取り潰すとかえって面倒だからですよ」

 ゾンバルトの説明によるとブレンメ男爵家の大借金は王国政府も十分に理解している。
 もしここを取り潰すとして、直轄地にするのは論外だ。
 直轄地となれば、ブレンメ男爵家に金を貸していた商人連中が大喜びで王家に借金の取り立てに向かうからだ。
 いかに金持ちとはいえ、バウマイスター辺境伯領の開発を後押しし、王国領内の魔物も領域の解放、リンガイア大陸東部と南部の探索と、将来的な殖民を計画している王国政府が無駄な借金の清算なんてしたくない。
 次に、ここは南部の雄ブライヒレーダー辺境伯家の縄張りでもある。
 ここに王国直轄地など置いても色々と面倒が増えるだけだ。

「当然、隣接する貴族家だって併合を拒否するでしょう」

 ブレンメ男爵領を併合するってことは、同時に抱えていた借金も背負い込むことになる。
 それなら、未開のエチャゴ平原でも開拓した方がマシよね。

「お館様は、勝手に兵を出したイーヴォ様の罪を高らかに糾弾し、その罪をもって廃嫡とします。彼に近い家臣たちも同時に解雇ですね」

 そうやって自分が独裁権を取り戻し、跡取りは長女である私に婿を取るわけね。

 今度は、商人の息子を分家の養子にでもするのかしら?

 こんな裏技、まず普通の貴族はしないから、王都ではブレンメ男爵家の評判は過去の当主の放蕩と合わせて地に落ちている。
 父は王都になんて行かないから気にしていないと思うけど。

「王国政府は黙認するかしら?」

「しますね。テスタロッサ家に賠償代わりに一部領地を割譲とかでしょうね。王国政府としてもブレンメ男爵領が存在した方が都合いいのです」

 実質破綻している領地だから、敢えて誰もその事実を指摘せず放置した方がみんな幸せなわけね。

「それはわかったけど、兄が暴発してテスタロッサ騎士爵領に深く進攻したら大変じゃない?」

 向こうの領民に被害が出たら、領地の割譲くらいで恨みが晴れるはずがない。
 ブレンメ男爵領の領民たちは、完全に孤立してしまうわ。
 テスタロッサ騎士爵家が周辺の領主と謀って人と物の流通を止める危険もある。
 ここは内陸部だから、塩は外から買わなければならない。
 それができなくなれば、今度は父が暴発するかもしれない。

「ゾンバルト! これは止めなければ駄目よ! あなたもそう思うでしょう?」

「思いますが、お館様もイーヴォ様もこの有様では……私にもできることに限度がありますから……」

 そうだったわね、ゾンバルトの権限では兄や戦争をやめろなんて言えないし、父に兄を止めるようにとも言えないか……。

「このままでは、我が領地は崩壊してしまう。こういう時は、寄親であるブライヒレーダー辺境伯様に状況をお伝えして……テスタロッサ家にも注意を喚起しておかないと」

 でも、娘でしかない私が手紙を書いたとて、向こうは信用してくれるだろうか?

 その前に、どうやって手紙を届けよう。
 私は領地を出たこともないのだから。

「ゾンバルト、頼まれてくれますか?」

「無論ですとも。すぐにお届けしますので、お嬢様は文を認めてください」

「わかったわ」

 こうなったら、最悪父と兄を排除してでもブレンメ男爵領を守らなければ。
 私は自室でペンを取り、ブレンメ男爵家の現状について手紙を書き始めるのであった。



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