様々な小説の2次小説とオリジナル小説

 それから数日後。

「うわっ! 臭せっ! 気持ち悪いなぁ」

「ヴェル、剣がヌルヌルになったぞ」

「エルヴィン少年、某など拳がヌルヌルである! しかも臭いのである!」

「ヴィジュアル的にも最悪だな」

「魔力を飛ばせばいいだろう」

「できるか」

「エルは一応重臣なんだが、魔武器ぐらいは装備しておかないと」

「魔武器や『高位武器』なんてファブレ辺境伯でしか売ってないじゃないか」

 『高位武器』とは、魔鉄や魔鋼などで作られた武器全般を指すのだ。1年間の製造数は、なんと150本である。鋼以上の切れ味を有し、頑丈さもミスリルをも凌ぎ、魔力伝達率は、ミスリル以下鋼以上である。当然ながら武器の修繕はファブレ辺境伯でしかできない。

 今、俺達がいるのは『ゴミクソ岩場』である。この場所は、小領主混合領域の中心から少し南寄りにある魔物の領域で、ここは、生息する魔物の種類が他とはまったく違っていた。岩場だが、あまり高い岩山などもなく、地盤は安定しているので町を作るには条件はいいと思う。なにより、ここには殊更利権を要求する業突く張りな貴族たちや、それに連なる連中もいないので、ここに町を作れば非常に安く済むというわけだ。俺と導師は、王宮命令で、リッドは、王宮指名依頼、ブランタークさんは、ブライヒレーダー辺境伯の命令、ヴェルたちは、紛争案件の解決のためである。

 紛争案件解決のために町の建築をヴェルが提案をしたら陛下は非常に乗り気となり、他の閣僚たちにも反対する者などおらず、『ゴミクソ岩場』解放作戦は実施されることになった。

「今、ひっくり返ったアブラムシを見てしまった。足がワシャワシャ動くのを見ると気分が悪くなってくるな」

 元ベテラン冒険者ゆえに『ゴミクソ岩場』を知っていたブランタークさんだが、これも宮仕えの悲しさであろう。
 ブライヒレーダー辺境伯から強制的にヴェルたちへの同行を命じられた彼が、心の底から嫌そうな顔をしていた理由がよくわかった。
 この『ゴミクソ岩場』には、基本的に動物型の魔物は一切存在しない。
 人間ほどの全長がある、黒くて、脂ぎっていて、足が六本あって、カサカサいっている、飲食店経営者が嫌う昆虫第一位であろう奴が、見えるだけで数十匹もいた。

 それをブランタークさんが順番に魔法で倒して凍らせている。
 あんなに小さい奴でも見かけると色々と不幸な気分になるのに全長が人間並みのゴキブリなんて、誰だって見たくもないであろう。
 他にも、触るとダンゴになる虫の巨大版。
 全長三メートルを超える足が沢山ある長い虫。
 地面を這うとヌルヌルが残るカタツムリの中身しかない虫もいた。
 これを直接殴ってしまった導師は拳にヌルヌイルが、剣で斬り殺したエルはお気に入りの剣の刃に大量のヌルヌルがついてしまい、どうやって落とそうかと真剣に悩んでいた。
 そして、このヌルヌルも異常に臭いのだ。
 ゴキブリもダンゴ虫もムカデもナメクジも、そんなに強くないが殺すと出る体液が異常に臭い。

「これは、誰も討伐を引き受けないわけだ」

 魔石しか素材が取れず、強くはないが気持ち悪い、臭い、繁殖力も尋常ではない魔物とのいつ終わるかわからない戦いを思えば、他の魔物の領域に行った方がマシだな。

「ヴェル、いつものように魔物の素材の使い道とか考えてくれよ」

「嫌だ」

「ルーク、お前は」

「俺も嫌だな」

 それを知るために、俺にゴキブリやナメクジに触れと?

 死んでもゴメン被る。

「そんな、自分が嫌なことを人に任せるのはよくないと思います」

 そう言うとヴェルは『岩棘』を一度に数十カ所同時に発動させ、大量の虫を串刺しにして殺した。

「臭せっ! 辺境伯様!」

「そんな余裕ないですって!」

 流れた体液の臭いが風に乗ってくると臭くて気持ち悪くなってくる。
 強くはないけど、とにかく困った連中だ。

「せめて、素材が金になればな」

 もしそうだったら、臭くても冒険者は集まるはずだ。
 一体一体が弱いってのも戦闘力はなくても稼ぎたい冒険者には向いているだろう。
 臭さに耐性があれば、かなり稼げるはず。
 現実は、低品質の魔石が取れるだけだけど。

「そりゃあ、ハルカさんもエリーゼたちも帰るわ」

 一人だけ大丈夫な人がいたのだ。

「あははっ! この臭せぇ腐れ虫どもが死ねよぉーーー!」

 一人だけ、リサが虫たちにブチ切れながら、魔法を連発して虫たちを虐殺、死骸を凍結させ続けていた。
 あのメイクと衣装をつけた状態なら大丈夫だそうで、なんというか、相変わらず難儀な性格をしていると思う。
 なお、普段のメイクを落とした状態だと虫は全然駄目だそうだ。

「三本目の剣が、もうヌルヌルだぁ……。これ、ちゃんと落ちるのかな?」

「今すぐ帰って酒飲みてぇ……」

「倒しても食えぬ魔物なので、やる気が起きないのである! 臭っ! なのである!」

「・・・・最悪だな」

「ヴェル、結構倒したけど減った気がしないな。ボスを殺してしまおうぜ」

「駄目に決まっているだろうが!」

 そんなことをしたら、あの巨大ゴキブリが小領主混合領域中に広がってしまうではないか。
 とにかく虫は、一匹も残さずに殺すしかないのだ。

「そんな無茶を言うなよ!」

「そのくらいの覚悟でやればいいんだ」

 まあ、さすがに『ゴミクソ岩場』にいるすべての虫を殺せるとは思わないが、粗方始末しておかないと解放後に色々と大変だからな。
 あんなデカイ虫に迫られたら、普通の人は一生物のトラウマを背負ってしまうだろうから。

「役割を分担するのである!」

「それがいいな」

 導師の提案にブランタークさんも賛成し、俺達は分業制で虫を始末することにした。
 俺、リッド、ヴェル、ブランタークさん、導師がとにかく虫を殺しまくり、リサが死骸を凍結させる。
 そして、魔石を回収するのがエルの役目という事になった。

「臭い……」

「男なら我慢しな!」

「はいっ! 同じ人なんだよなぁ……」

 派手な衣装とメイクのリサに叱られ、エルは普段と違う彼女の言動に困惑していた。

「じゃあ、エルが虫を殺すか?」

 どうせ近接戦闘主体のエルには殺した虫の体液が飛び散って臭いし、エルの剣はさらに粘液等でヌルヌルになるけど。

「魔石を取り出す係でいいです……」

 こうして分業での虫駆逐作戦が始まったが、とにかく虫の数が多くて辟易する。
 それでも、通常の魔物の領域なら魔物は素材になるので金になったが、『ゴミクソ岩場』の虫は魔石しか取り出せない。
 挙句に体液も粘液も臭い。
 だが、放置すれば死骸が腐ってもっと臭くなる。
 さらに……。

「リサ! 急いで凍結させろ!」

「もう嗅ぎつけたのかい!」

 虫の死骸を放置すると、すぐに巨大ゴキブリがそれを漁りにやってきてしまうのだ。
 死骸が食べられてしまうと、それは新しいゴキブリの栄養になるわけで、数を減らすには瞬間凍結させて触れたらバラバラになるようにしなければならないのだ。

「『ゴミクソ岩場』の噂に恥じない酷さだな」

「臭いのである!」

「しかし、ここを解放しないとなにも始まらないですから」

「辺境伯様、人を雇おうぜ」

「それがですね……」

 実は、『ゴミクソ岩場』だけには行くなと冒険者たちの間では不文律になっているそうで、誰も応募してこなかったそうだ。
 かといって、巨大な虫たちは一応魔物であり、冒険者でもない人たちを『ゴミクソ岩場』に入れるわけにいかない。

「エリーゼたちと入れ替わりで、うちの警備隊員たちが来ると思うから……」

「お館様も、援軍くらいは送ってくるはずだし……」

 もし『ゴミクソ岩場』の解放に失敗すると毎年収穫が終わる度に条件闘争のための紛争を仕掛けられて迷惑を被るからだ。
 紛争を仕掛けられるのはバウマイスター辺境伯家だけど、ウシャント騎士爵家はブライヒレーダー辺境伯の寄子だから責任ゼロというわけにいかないからだ。

「そんな理由で、町を作るために魔物の領域を解放するなんて前代未聞だけどな」

「理由はなんにせよ。王国のためにもなるのである!」

 だから導師も作戦に参加しているのだけど、本人は食えもしない臭い虫たちに辟易しているのがわかった。
 陛下のお願いなので、途中で帰るような真似はしないだろうけど。

「これ、何日で終わるんだ?」

「さあ?」

「さあって……」

「俺が教えてほしいくらいだ。数ばかり多くて、見た目もキモイし、臭くて堪らんのだから」

 臭いのを我慢しつつ、『ゴミクソ岩場』で虫の掃討作戦を開始してから四日後、遂に待ちに待った助っ人がやってきた。
 魔導飛行船にバウマイスター辺境伯家警備隊の兵士百名が乗っていたのだ。

「お館様、お待たせしました……臭っ! 申し訳ありません!」

 警備隊んたちを率いていた若い指揮官は、出迎えた俺たちを臭いと言ってしまい、失礼に当たると慌てて謝った。
 しかし、そんなことを気にする必要はない。
 なぜなら……。

「どうせ一日でみんな臭くなるから」

「本当ですか?」

「やればわかるさ!」

「わかるのですか?」

「事前に言っておく。すごい貧乏クジな任務だから」

 人数が増えたので、警備隊員たちも虫の駆除に加わった。
 虫はよほど油断しなければ、ちゃんと訓練している警備隊員たちなら普通に倒せたからだ。

「げぇーーー!」

「吐くな! その吐いたものに虫が寄ってくるだろうが!」

「重たいし、臭い……」

「我慢するのだ! お館様はもう四日もこの作業を率先して行っているのだぞ!」

 人数が増えて倒せる虫が増えたので、倒した虫を一カ所に集めることにした。
 リサが効率的に虫を凍結させるためである。

「あはは………」

 あまりの臭さにリサは現実逃避しながら虫を凍結させる方法の獲得に成功した。
 ただし、傍から見ているとただの危ない派手な女性にしか見えない。

「いつ終わるんだろう?」

 魔石を回収しているエルは、このいつ終わるかもわからない作業に心が折れかけていた。
 それでも順調に作業が進み、翌日にはブライヒレーダー辺境伯も援軍を送ってくれたので、さらに作業効率は早まった。
 彼らも、虫と臭いの洗礼を受けて精神にダメージを受けていたが。

「粗方やったのである?」

「みたいだな」

 元々『ゴミクソ岩場』は、それほど広い魔物の領域ではない。
 その割には随分と虫の密度が高かったが、それはこの碌に食べ物がない『ゴミクソ岩場』では虫たちが共食いで生きているという事情を知るとさらに気分が悪くなる事実があったからだ。
 そのため不注意な警備隊員たちがちょっとゴミや食べ残しを放置していると、そこにワラワラと押しかけてくる。
 汚い話だが、排せつ物も燃やすか、領域の外に出すしかなかった。
 なぜなら、便所を作るとそこに殺到してくるからだ。
 そういう事情も余計に警備隊員たちの心を折ってくるのだ。
 だが、そんな悲惨な日々も遂に終わる。
 あとは、この領域のボスだけ……上空から魔法で念入りに『探知』したから大丈夫であろう。
 特にゴキブリは、一匹見たら三十匹はいると思った方がいいので、念入りに『探知』して駆除していた。

「じゃあ、行ってくる」

「頼むぞ、ヴェル」

「お館様、もう終わらせましょう!」

 エルや警備隊員たちの声が、随分と必死な感じがした。
 もうこれ以上、虫の処理は嫌なのであろう。
 ブランタークさんによると『ゴミクソ岩場』のボスは中心部に逼塞しているそうだ。
 そこで、リサは……。

「あはは、まだ凍結させものがあるね」

「ありませんから! リサ様!」

 ちょっと休養が必要だと思うので、俺、ヴェル、ブランタークさん、導師の4人だけで現場に飛んで行く事にした。
 ブランタークさんによると、『ゴミクソ岩場』のボスはまったく強くないそうだ。

「ボスらしくないのである!」

「こんな、特殊な魔物の領域だからな。ボスも特殊なんじゃないのか?」

「どんなボスなんです?」

「見ればわかる」

 現場に到着すると、そこには小さな岩山にビッシリとしがみ付く、数千匹はいると思われる全長五メートルほどのゴキブリの群れがいた。

 その体は黒光りしており、目撃した多くの人たちを恐怖に陥れることは確実であろう。
 現に俺も、背筋が凍る思いだ。
 強いとか弱いとか以前に、それ以前に生理的な嫌悪感しか抱かない。

「あれですか?」

「ううっ……俺も現物は初めてみた。『グレート・オブ・コックローチ』は、このように数千匹の群れで一匹のボスみたいな扱いとなるわけだ。全滅させないと倒したことにならないが、大きいだけでそんなに強くはないそうだ」

 気持ち悪いだけで、他の虫と同じく弱いのが救いか。
 これで強かったら最悪だよな。

 でも、繁殖力に能力を全振りしていると考えれば、強いゴキブリってのは前世で見た漫画くらいなのか?

「では、某が一気に片づけるのである! 我が渾身の炎柱を見るのである!」

「導師、そんないきなり! 『グレート・オブ・コックローチ』を殺すのに炎は……」

 精神的に追い込まれていた導師が、ブランタークさんの話をすべて聞かないで『グレート・オブ・コックローチ』の群れ全体を火の柱で包み込む『ファイナル・バースト・ギガ・バーニング』なる、初めて聞く魔法で『グレート・オブ・コックローチ』を岩山ごと焼き払った。

「言うほど威力はないのかな?」

 対象が広範囲にいる『グレート・オブ・コックローチ』なので、それをすべて火柱で包み込んだようだ。
 威力はさほどでもないが、『グレート・オブ・コックローチ』はみんな炎に包まれているから、ブランタークさんが心配する必要はないように思えた。

 一度火がつけば、巨大ゴキブリは自身の油で燃え尽きてしまうのだから。

「ブランタークさん、別に炎で焼いても問題ないみたいですよ」

「心配しすぎなのである!」

「全部燃えていますし、これで終わりですよね」

「戻ったら、王都で豪華な飯と酒である!」

「俺もエリーゼの料理を食べたいかな」

 その前に『洗浄』『浄化』で臭いのをどうにかしなければ。
 そんな風に思いながら導師と話をしているとブランタークさんの顔色が一気に真っ青になったのを見てしまった。

「ブランタークさん、どうかしましたか?」

「聞いたとおりだ……『グレート・オブ・コックローチ』は、炎で倒してはいけない。死骸を焼くのみにすべし。なぜなら、『グレート・オブ・コックローチ』は、そのしぶとい生命力が特徴の魔物で、焼かれてもなかなか死に至らず、自分に火をかけた者に全力で向かってくるからだ」

「えっ?」

 そんな話、今初めて聞いたけど。
 炎に包まれた数千匹の巨大ゴキブリが、一斉にこちらに向かってくる。
 燃えた時に出る臭いと共に。
 なにより、あのガサガサが数千匹も、しかもそれは全長五メートルを超える巨大ゴキブリなのだ。

「導師、ちょっと俺から離れてください」

「そうだな。これは、導師が俺の話をちゃんと聞かないからこういうことになったんだ。責任取らないとな」

「最悪だな」

「なにを言うのである! バウマイスター辺境伯、ファブレ辺境伯、ブランターク殿。某たちは、これまでいくつもの困難を乗り越えた仲間にして、年は離れているが真の親友なのである。一蓮托生なのである」

 いつの間にか導師は、俺とヴェルとブランタークさんのローブを掴んで決して離さなかった。
 意地でも、4人で一蓮托生ということにしたいようだ。

「さあ、一緒に『魔法障壁』を張るのである」

「導師、恨むからな!」

「恨みますよ!」

「あとで飯でも奢るのである!」

「「「割に合わねえ!」」」

 それ以降のことは、あまり詳しく語る必要はないと思う。
 容易に想像がつくし、正直あまり語りたくないというか……。
 火達磨の巨大ゴキブリ数千匹が、導師目掛けて一斉に襲いかかり、『魔法障壁』にぶつかる度に手足がもげ、体が焼けて強度が落ちている個体は胴体が裂け、その体液が飛び散って『魔法障壁』に飛び散り、あの気持ち悪い足やお腹側の見たくもない動きが『魔法障壁』越しによく見えた。

「全員、目を瞑れ」

 俺の号令で、全員目を閉じつつ、魔法障壁を張った。

「導師ぃーーー!」

「すまんなのである!」

「早く死んでくれぇーーー!」

 それから十分ほどで火がついた『グレート・オブ・コックローチ』は全滅した。
 別に命の危険は一切なかったが、俺たちはトラウマを、その心に深く刻まれてしまうのであった。



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