様々な小説の2次小説とオリジナル小説

「お館様、全然儲からねえだよ」

「うちの領地、ちょいと場所が悪いからなぁ……」

「南にバウマイスター辺境伯領はあるだが、魔導飛行船の港があるわけでもねえだし」

「港なんて作っても、こっちに船は来てくれねえべ。利用者が少ねえからさ。維持する経費ばかりかかって赤字になるべ。その前に作れないけど」

「船に載せるような特産品もねえしな」

「チタ菜はどうだべ? あれは一応、うちの特産品だべ?」

「一応チタ菜なんて名前はあるけどよ。ただの菜っ葉だしな。運賃払って船に積んだ時点で赤字確定だべ」

「もっと高値で売れる特産品があればいいんだが……」

「そんなもの、このウシャント騎士爵領にはねえべよ」

 今日も私の家臣たち……まあ、全員農民にしか見えないが一応従士である。従士長もいるが、外部の人間には見分けはつかないだろうな……が、解決策の出ない会議を続けていた。
 議題はいつも同じで、いかにしてこのウシャント騎士爵領を発展させるかであった。
 しかし、これがとても難しい。
 我がウシャント騎士爵領は、農業が主な産業というか……農業しかないというか、隣接する領地に農作物を売るくらいで、あとはほぼ自給自足の貴族領であった。
 土地は豊かなので、領民たちが飢える心配はない。
 次男以下だって、その気になれば開墾できる土地は沢山残っている。

 ところが、若い者がまったく定着しない。

 ウシャント騎士爵領は小領主混合領域にあるので、みんな近くにあるブライヒレーダー辺境伯領の領都ブライヒブルクに行ってしまうからだ。

 さらに、最近ではバウマイスター辺境伯領とファブレ辺境伯領の発展がすさまじいので、そちらへも若い人間が流出してしまった。

 今のバウマイスター辺境伯領とファブレ辺境伯領では仕事が沢山あるので、みんなそれなりに暮らせていると連絡があるのは救いか……。

 しかしその分、我がウシャント騎士爵領は停滞が深刻であった。
 長男は広い畑を継げるのでさすがに残るが、次男以下でウシャント騎士爵領に残る者がほとんどいない。
 田舎であるウシャント騎士爵領よりもブライヒブルクやバウルブルクや温泉宿の村の方が楽しく生活できるからであろう。

 利便性では勝負にならないのだ。

 うちの領地の場合、近年では跡を継げる長男の方が『俺も外に出たい』と不満を漏らすケースが増えていた。
 若い女性など、ブライヒブルク、バウルブルクにある飲食店や服飾工房などで働き、現地で結婚相手を見つけてそのまま戻って来ない者も増えた。

 このままだと跡継ぎ長男なのに嫁がいないなんて事態になりかねない。
 とはいえ、私もこの状況をただ座視しているわけではない。
 少しでもこのウシャント騎士爵領を発展させ、一人でも多くの若い者が残る領地にしなればと思い、これまで努力してきた。
 何か特産品を作り、領民の収入をあげ、税収が増えた分で若者が魅力を感じる町作りなどを行う。
 という戦略を立てたのだが、いきなり躓いてしまった。
 うちは農産品くらいしか輸出する物がないが、領地が不便な場所にあるので、隣接する他領くらいにしか販路がない。
 それに農作物なら他の領地でも作っているのだ。
 それほど沢山売れず、しかも価格が安い。
 魔導飛行船の港までも遠く、馬車に農作物を積んで港まで向かい、魔導飛行船に載せて町に運ぶと完全な赤字でとても商売にならないのだ。

 運賃に見合う他の特産品もなかった。
 あと、チタ菜とは我がウシャント騎士爵領のみで採れる菜っ葉の名前であった。
 確かにうちでしか採れないのだが、ただの菜っ葉だからなぁ……。
 特別美味しいわけでもなく、菜っ葉に大きな期待を持っては駄目であろう。
 これが薬草ならいいのにと、これまで何度思ったことか。

「バウマイスター辺境伯領……ファブレ辺境伯領・・・最初は伯爵領か男爵領……の開発が始まった時には期待したんだがな」

「景気のいいところもあるっぺよ。ウシャント騎士爵領は駄目だけど」

 みんな、我がウシャント騎士爵家に忠誠心や敬意がないわけではないのだが、そこはまだマナーが行き届かない田舎領地なので仕方がない。

 うちの方言は、ちょっと他人が聞いたらビックリするレベルだからな。
 みんな故郷のために本音で正論をぶつけ合っているのだが、今日もいいアイデアが出ない会議は続いた。
 バウマイスター辺境伯領やファブレ辺境伯領の開発が始まり、それに近い小領主混合領域のみんなは最初大喜びしたものだ。
 実際、開発で必要な様々な物を調達し、販売できた貴族たちが大儲けをして、それを領地の開発に投資、領地を富ませることに成功している。

 ところが、うちみたいにその流れに乗れない貴族もいた。
 勝ち組と負け組が、明確に別れた感じだ。
 そんな状況の中、さてウシャント騎士爵領の次の一手はという議題で会議は始まったが、誰も画期的な方策を打ち出せないでいた。

「お館様、もう夢見ないで適当にやればいいっぺ。別にうちも滅ぶわけじゃねえんだから」

「んだんだ。じきになんとかなるっぺよ」

 果たして本当にそうなのか? 

 確かに今の我が領地は右肩上がりとは程遠いが、下がっているわけでもない。
 元が田舎領地なので、なにも変わっていないともいうが。
 だがこれから数十年先を見据えた場合、うちの領地は衰退する可能性が高かった。
 みんな便利な土地で生活したいし、バウマイスター辺境伯領やファブレ辺境伯領という開発のノリ代が大きな場所が近くにあるので引っ越しは非常に容易い。

 領民の引っ越しを禁じれば……実際にやっている者も多いが、効果は薄いな。
 田舎領主が動員できる人員くらいでは、夜逃げを目論む領民を捕えるのは困難だからだ。

「そうは言うがな。ヴェント、お前の跡取り、いつもバウルブルクで働きたいって言ってるよな?」

「お館様、子供の夢を本気にしては駄目だっぺ」

「次男以下ならわかるが、お前の跡を継ぐ息子が領地に残るのを魅力的だと思っていないのだ。このまま今は大丈夫だと思っていると、あとで大きな禍根を招くことになる」

「それはわかったけど、どうするっぺ?」

「私も色々と考えたのだが……」

 残念ながら、今のウシャント騎士爵領の状況では打つ手がない。
 領地を開発するにしても、なにしろウシャント騎士爵領は場所が悪い。
 ここを大規模に開発しても、数十年後、ただ廃墟だけ残ったなんてことになりかねない。
 まあ、そんな資金もないのだが。
 残念ながら、我々の努力だけでは解決が難しい問題だ。
 となると外部からの力でこの領地を変えていくしかない。

「王様に陳情するだか?」

「そもそも会ってくれないだろう」

 自慢じゃないが、私が陛下にお会いしたのはウシャント騎士爵位を父から継承した時だけだ。
 あの時、生まれて初めて見た王都は凄かった。
 とても同じヘルムート王国領土とは思えないほどだ。
 そんな田舎領地の当主である私に陛下が直接会ってくれるとは思えない。
 陛下はお忙しいだろうし、面会も大貴族が優先で、有象無象の零細貴族である私なんてまず相手にもされないはず。
 数千人もいる零細貴族といちいち会っていたら、陛下も時間が足りないってしまうから当然だ。

「なら、寄親のブライヒレーダー辺境伯様だか?」

「寄親とはいえ、普段ほとんど交流がないからな。第一、我がウシャント騎士爵家とブライヒレーダー辺境伯家は同じ王国貴族。こちらが一方的になにかしてもらうのもどうかと思う」

 忙しいのはブライヒレーダー辺境伯も同じで、いくら寄子でもいきなり面会できるほど交流があるわけでもないのだから。
 もし会えたとしてだ。
 そう簡単に援助してもらえるとは思えない。

「同じ王国貴族って……建前だっぺ」

「そんなことは、私も重々承知している」

 同じ王国貴族か……バウマイスター辺境伯やファブレ辺境伯と一緒に右肩上がりでブイブイ言わせているブライヒレーダー辺境伯と私。
 とても同じ貴族とは思えないがな。

 どうせ私の顔も覚えていないはず……よくよく考えてみたら、その程度なのに『貴族としての誇り』とか言って意味があるのか?

 いや、ないな。
 ならば、別にウシャント騎士爵家なんてなくなっても構わないわけだ。

「お館様、まさか領地を返上するだか?」

「いや、まさか」

 第一、こんな僻地にある飛び地を直轄地として献上しても、まず王国は受け取らないであろう。
 なぜなら、過去にそんなことを目論んだ貴族がいたからだ。
 その貴族が返上した領地を受け取った王国が直轄地なので代官を送ろうにも現地の事情をなにも知らない王都にいる食い詰め法衣貴族を送れば現地の混乱は必死。
 ならば、その領地の代官に一番適任なのはその領地を返上した貴族だったりする。
 結局、領地を返上した貴族は元自分の領地の代官になり、そこは王国直轄地なので他の直轄地に準じた待遇になる。
 代官になった貴族も代官職としての役職手当と法衣貴族としての年金が貰えて懐具合もよくなる。
 例えばその領地が不作だったり、災害が発生して被害が出た場合、今は王国の民となった元領民たちに支援をしたり、税の軽減や免除をするのは王国政府の役割で、元領主の懐はまるで痛まないというわけだ。
 過去にそんなことを考えついた貴族がいて数名が成功すると、それを知った零細貴族たちの中に経営に行き詰った領地を王国に返上しようと目論む者が増えてしまい、負担増で顔色が真っ青になった王国政府がそれを禁止したのだ。
 もっとも王国政府もそこまで甘くはなく、人材が揃っている王国政府は独自に領地の経営改善案を立案し、王都で燻っていた法衣貴族たちにその領地を与えている。
 領地を返上した貴族たちは王都に移動させられ、それ以降は職ナシ騎士として貴族としては最底辺に沈んだそうだ。

「王国政府は甘くない。田舎の零細騎士がぱっと思いついたような浅知恵程度、簡単に対策を取ってしまうのだ」

 つまり、王国政府を相手にするのは分が悪いというわけだ。

「じゃあ、どこを相手にするだっぺ? もしかして帝国だべか?」

「それをしたら反乱だろうが」

 勝手に所属を変えるなど、王国に容赦なく叩き潰されてしまうので、そんな悪手は用いない。

「大物貴族を相手にすればいいのだ」

 そう、件の貴族が失敗したのは王国に対し策を用い、貴族という地位に未練を持つから王都で燻る羽目になる……ただ、その貴族も完全に失敗したとは思っていないはず。
 職ナシだが、貴族としては生き残れた。 
 王都の名ばかり法衣騎士と地方の零細騎士爵領家。
 どっちの実入りがいいのか、難しいところもあるからな。
 王都の職ナシ法衣騎士は領地持ち貴族を羨ましく思い、地方の零細騎士は年金が出る法衣騎士を羨ましく思う。
 隣の芝生は青く見えるというわけだ。
 領地経営なんて、極一部を除けばそんなに儲かるものでもないからな。

「大物貴族って、ブライヒレーダー辺境伯様にだか?」

「それは無謀だ」

 あの家は、開祖以来千二百年以上の歴史がある。
 困った貧乏貴族が策を用いた時の対処にも慣れているためブライヒレーダー辺境伯に策を仕掛けるのは無謀だ。

「バウマイスター辺境伯家は新興貴族なので、こちらを狙う。家宰のローデリヒ殿は優秀と聞くが、彼にはその手の経験が浅いという欠点があるのでな。私の策の成功率が上がるはず」

「オラぁ、お館様の家臣だからやれと言われればやるがよ。なにをやるだっぺ」

「それはだな……」

 私は家臣たちに自身が考えた策を説明した。

「その策だと仮に成功してもウシャント騎士爵家がなくなってしまうだよ」

「初代以来、八百年続いたウシャント騎士爵家を潰すだか?」

「先祖に申し訳が立たないべ」

「貴族でなくなるのはどうかと思うべ」

 みんな一斉に反対意見を述べるが、それは私も想定済みであった。

「貴族として八百年続いた。これは凄いとは思うが、よく考えてもみろ。王都に住む陛下や貴族たちが、ウシャント騎士爵家が八百年続いた事実を知っていると思うか? もし我が家が潰れたとして、それを惜しいと思う者がいると思うか?」

 どうせうちが潰れても王都でその話が広がるとも思えない。
 極一部の貴族たちが『ウシャント騎士爵家が潰れたそうだ』、『それは大変だったな』で話が終わると思う。
 そしてその話をした翌日の昼食前には、彼らの記憶からウシャント騎士爵家のことは消えているはずだ。

「貴族としてのプライド云々よりも、この土地の未来の方が大切だ」

「んだども、ウシャント家を潰すのはよくないっぺ」

「潰す? ヴェンテはなにか勘違いしていないか?」

「勘違い?」

「私は、ウシャント騎士爵家はなくなると言ったが、ウシャント家が潰れるとは言っていないぞ」

 ヴェンテ、ちゃんと私の話を聞いてもらわないと困るな。
 お前は少し早とちりなのが玉に傷だな。

「そうだべか?」

「ふふっ、これがこの策の肝なのだ。貴族としてのウシャント騎士爵家は潰れるが、ウシャント家は残る。むしろ、後者の方が実身入りも増え、この土地の開発も進む。知名度だって、きっと上がるはずだ。私は決めたぞ! この策を用いてこの領地を救い、我らの生活もよくするのだ」

「お館様がそれでいいっていうのなら、我々も従うっぺよ」

「それでいい。早速準備を開始するぞ」

 私たちはこのウシャント騎士爵領の未来のため、善は急げとばかりに、早速準備を始めるのであった。



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